【雅歌】愛に満ちた言葉【1章、2章解説】#6

目次

感謝の表現は幸福をもたらす

雅歌の特徴の一つは,その内容がすべて, おもにソロモンとシュラムの女との対話になっているということです。このような精巧な手法をこらすためには詩的な才能が要求されるはずです。なぜなら,この形式は雅歌の基本的なテーマである「人間の声を聞く喜び」に合致しているからです。

ソロモンは彼女に,「あなたの声を聞かせなさい。あなたの声は愛らしく,あなたの顔は美しい」と言っています(雅2:14-8:13比較)。

シュラムの女は愛する人の声を聞いて喜んでいます(雅2:8- 5:2比較)。

ソロモンは,「わが花嫁よ,あなたのくちびるは甘露をしたたらせ」と言っています(雅4:11)。

これに答えて,彼女は「その言葉は,はなはだ美しく」とほめたたえています(雅5:16)。

目つき,声,手ざわりなどはみな,私たちをお互いに結びつけるうえで大切な役割を果たします。しかし,心の思いを伝える声や言葉はそれらよりもはるかにまさったものです。雅歌はまさにそれです。当然ながら,雅歌の作者は声そのものに喜びを見い出しているわけではありません。重要なのは,お互いの愛情を表現することです。

Ⅰ. 愛情をこめた言葉

「もっと明るい両親やもっと明るいクリスチャンが必要である。わたしたちは自分の中に閉じこもりすぎている」(『アドベンチスト・ホーム』30ページ)。「夫も妻も相互の幸福を計り,生活を気持ちよく,明るくするような細かい礼儀や,ちょっとした親切な行為を決して怠ってはならない」(『ミニストリー.オブ.ヒーリング』362 ページ)。

ソロモンとシュラムの女は互いにどんな愛称によって呼び合っていますか。

・シユラムの女に対する呼び名雅1:9(1:15,4:1,7 比較)
・ソロモンに対する呼び名雅1:13(2:3,8〜10比較)

ソロモンはその最初の言葉の中で,自分の花嫁を「わが愛する者」という愛称で呼んでいます(「私のかわいい人」-新国際訳,「私の最愛の人」一新英語聖書)。聖書の中でここしか用いられていないこの言葉は彼女に対するソロモンの呼び名となっています。一方,彼女は雅歌5:16において,この言葉の男性形を用いています。そこでは「わが友」と訳されています。これは「私の親愛なる友」,「私の愛する友」という意味です。

花嫁も20回以上,「わが愛する者」という言葉をもって夫に呼びかけています(「私のいとしい人」一改訂標準訳,「私の愛人」一新国際訳)。エルサレムの娘たちと友人たちもこの言葉をもって彼に呼びかけています(雅5:9, 6:1, 8:5)。また,一度だけふたりに呼びかけています(雅5 : 1 ) 。

花嫁に与えられている最初のほめ言葉に注目してください(雅1:9)。これを彼女に与えられたほかのほめ言葉と比較してください(たとえば,雅4:1,2,7:4)。これらはどんなときに与えられていますか。それらはどのように受け入れられたと思いますか。

美しく飾った雌馬,山にいるやぎの群れのような髪,洗い場から上がってきた羊のような歯一一見,これらが果たしてほめ言葉なのか疑いたくなります。彼らは何とかして愛を言葉で表現しようとしています。動物,宝石,金属,香料,果実にたとえることは,感情を表現する助けになります。

◆ 正直なほめ言葉は愛を伝えるうえでどれほど大切ですか。

Ⅱ. ほめることの大切さ

質問3 ソロモンに対するシュラムの女のほめ言葉は彼女の愛情をどのように伝えていますか(雅1:12〜14)。これらの聖句に述べられている高価な香料は何を暗示しますか。これらのほめ言葉を雅歌1:9におけるソロモンのそれと比較してください。

人をほめることはローマ12: 10に与えられているクリスチャンの教えとどのように一致しますか。

「いつくしむ」という言葉は「愛」を意味する二つのギリシア語からなっていて,「心からの愛」あるいは「心から愛する」という意味を持っています。二番目の「尊敬し合う」という言葉は「高く評価する」という意味を持った言葉から来ています。折にかなって語られる正直なほめ言葉は太陽の光のように人間関係をあたたかいものにしてくれます。それは私たちの自尊心を高めてくれます。

イエスは次の人々に対してどんなほめ言葉を用いていますか。彼らに対するイエスの言葉と態度はどのように神の恵みをあらわしていますか。それらはどのようにして聞く者たちの心をイエスとのより深い関係へと導きましたか。

マリヤ(マタ26: 10〜13)
ザアカイ(ルカ19:5〜10)
サマリヤの女(ヨハ4:5〜26,39)

イエスは人々をご自身に結びつけられる これらの個人的な出会いはすべて一つの奇跡であって,人々に新しいいのちと希望,そしてイエスに結びつきたいという強い願望を生じさせる感情的,霊的なよみがえりのわざでした。イエスはご自分を拒んだ者でさえ正直者とみなして,愛をもって接しられました(マル10:17〜31)。

「これらの苦闘し,よるべのない多くの者にとって,親切な言葉や,同情のまなざし,感謝の表現はかわきにあえぐ魂への一杯の冷たい水のようになります。-つの同情の言葉,一つの親切な行為は疲れた肩に重くのしかかっている重荷を持ち上げます」(『思いわずらってはいけません』30ぺージ)。

◆人からほめられたことによってあなたの人生に起きた「奇跡」はありませんか。あなたも今日,出会う人をほめてみませんか。

Ⅲ. 愛の交わり

雅歌1:9〜2:6はソロモンとシュラムの女との対話になっています。中には取るに足らないように思われる部分もあるかもしれませんが,そこから親しい人間関係に欠かすことのできない大切な要素を学びとることができます。

・彼らは心からほめ合っています。

・彼らは互いに愛称を用いています。

・彼らは一対一で語り合っています。

・彼らは互いに触れ合うことによって感情を表現しています。

より深い交わりのために ソロモンとシュラムの女との対話は親しい交わりのための原則にかなったものです。結婚生活であれ,独身生活であれ,友情が深まるにつれて,相手に対する信頼は深まり,より開放的になります。お互いの関係が深まれば深まるほど,自分の感情や思いを分かち合うようになります。愛称と賞賛は慰めと安心に満ちた雰囲気をつくり出し,より意義深い交わりを可能にします。

花嫁は雅歌2:1で自分自身を「シャロンのばら」, 「谷のゆり」と呼んでいますが,これにはどんな意味がありますか。

「シャロンのばら」や「谷のゆり」という言葉はしばしばキリストに与えられている名称です(『教育』129ページ参照)。文法的にも文脈的にも,これらの言葉がシュラムの女自身によって語られていることは明白です。彼女が自分自身をたとえているこれらの花はパレスチナ地方によく見られる野の花です。この言葉には二重の意味があります。

1.雅歌2:1に示されているおおらかさは強く心を打ちます。シュラムの女は素朴な野の花のようにめでられるのを待っています。彼女の言葉は打ちとけた関係を暗示しています。彼女はその純朴さ,田舎風の美しさ,平凡さを持ったまま夫に信頼しています。

2.彼女が自分自身をたとえている「ゆり」は,雅歌におけるもう一つの女性に対する象徴です。それはあとの聖句を解釈するための鍵となります(雅2:16,4:5,6:3参照)。

◆感謝の気持ちを表すことは私たちの人間関係においてどれほど重要ですか。感謝の表現を怠ることは結婚生活,親子関係,職場,友情にどんな悪影響を及ぼしますか。

Ⅳ. 信頼の基礎である交わり

シュラムの女はありのままの状態でソロモンに信頼することができました。それはどこからわかりますか。

雅2:2

たとえ自分自身を不相応な女と思っていたとしても,彼女は王から深く愛されているゆえに,非常に恵まれた地位にありました。賢明な聞き手として,ソロモンは彼女とその言葉をそのまま受け入れています。彼女を矯正しようとはしていません。彼女はありのままの自分を見せ, それがかえって自分を魅力的にしています。ソロモンは彼女の言葉を受け入れ,それを高めています。彼にとって彼女はすぐれた品性の持ち主です。

◆私たちはどんな態度・行動によって愛する者とより深い交わりに入ることができますか。

花嫁は愛する者との関係をどんな喜ばしい経験にたとえていますか。

雅2:3

信頼,率直さ,愛の表現をともなった交わりは,安心,平安,満足感をもたらします。「夫は同情と不変の愛情をもってその妻を助けるべきである。もし妻を家庭の太陽のように,はつらつとうれしそうにしておきたければ,夫は妻が重荷を負うのを助けなさい。夫の親切と愛にみちた礼儀は彼女にとって尊い励ましとなり,夫が与えた幸福は,夫自身の心にも喜びと平安をもたらす」(『アドベンチスト・ホーム」237,238ページ)。

神の陰にすわる 「私たちは,『わたしは大きな喜びをもって,彼の陰にすわった』(雅2:3)という言葉の意味をもっと十分に理解する必要がある。これらの言葉が私たちの心に与える印象は目まぐるしい移り変わりではなく,静かな平安である。多くのクリスチャンが不安をいだいて,ふさぎこんでいる。忙しすぎて神の約束のうちに静かに憩う時間を持っていない。あたかも平安な静けさを味わう余裕がないかのようにふるまっている。そのような人たちに対してキリストは,『わたしのもとにきなさい。あなたがたを休ませてあげよう』(マタ11:28)と招いておられる」(『教会へのあかし』第7巻69ページ)。

◆木陰で過ごしたときのことを思い出してください。どんな光景,音,感情が思い浮かんできましたか。あなたが自分の配偶者,家族,親友,神に対して抱いている感情はどのようなものですか。

V. 「彼は愛をもって私をながめた」

「わたしの上にひるがえる彼の旗は愛であった」という表現は何を意味しますか(雅2:4)。シュラムの女にこのように言わせたものは何だったのでしょうか。

「旗」というヘブル語はよく「軍旗」,「標章」などをさすのに用いられます(民数1:52参照)。王が彼女のために自分の旗で作った日よけの一種と解釈する人たちもいます。この聖句を,「私に対する彼のまなざしは愛に満ちていた」, または「彼は愛をもって私をながめた」と訳す人たちもいます(G・ロイド・カー『雅歌』91ページ)

愛だけが満足を与える その正解な意味が何であれ,雅歌2:4が愛とその表現によって与えられる完全な満足を描写していることだけは確かです。

「愛を表現することは弱さを表すことであると思っている人が大ぜいいて,相手をよせつけぬような冷淡さを装う。こうした精神は同情の気持がわきでるのをとめてしまう。……表現しなければ愛は長くつづかない。あなたと結ばれた人の心が親切と同情に欠乏して餓死することがないようにすべきである」(『ミニストリー・オブ・ヒーリング』332,333ページ)。

「私たちの上にひるがえる」主の旗もまた愛です。私たちに対する主の愛は広範囲に及ぶものです。次の聖句は神の愛の広さについて何と教えていますか。

哀3:22,23
詩63:3
エペ2:4〜7
1ヨハ3:1

「天の父は,罪に汚れた衣をあなたからぬがせてくださる。……神は,あなたに『救いの衣』を着せ,『義の上衣』をまとわせてくださる(イザヤ書61 : 10)。・・…・神は,あなたを祝宴の家に連れて行き,あなたの上に愛の旗をひるがえしてくださる(雅歌2:4)。……『花婿が花嫁を喜ぶように,あなたの神はあなたを喜ばれる』(イザヤ書62:5)」(『キリストの実物教訓』186,187ページ)。(『教育』308ページ,『教会へのあかし』(英文)第7巻131ページ参照)。

◆神の愛はあなた自身の価値をどのように高めてくれますか。どうしたら神の愛を人々に伝えることができますか。

まとめ 

交わりは人間関係に欠かすことのできないものです。お互いの交わりを通して,私たちは心の願望を相手に伝え,その答えを見つけ出すのです。この交わりが有益なものとなるためには,相互の信頼, 率直さ,愛の表現がなければなりません。人間関係における原則は神との交わりに相通じるものがあります。

*本記事は、1992年第4期安息日学校教課『雅歌 愛の歌』からの抜粋です。

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