【雅歌】砕かれた夢への望み【3章,5章,6章解説】#10

目次

親交の障害を克服する 

ソロモンの雅歌には,結婚生活の喜びと悲しみが啓示されています。ソロモンとシュラムの女とのしあわせな結婚式の前と後に,これとは非常に対照的とも言える,争い,緊張,別離の要素をともなった挿入的な物語が述べられています。これらの聖句は私たち自身の親密な人間関係を直視する助けとなります。私たちは神の知恵と恵みによって,人間関係におけるさまざまな障害を克服できることがわかります。

性格や問題解決の姿勢が異なっていたとしても,それが必ずしも和解できない争いをもたらすとは限りません。たとえその態度や生き方が型にはまった人であっても,友人や配偶者の影響によって新しい物の見方や人との接し方を学ぶことができます。原則にかかわることでは堅く立つことが大切ですが,ほかの問題に関しては柔軟性を持つことも同じくらい大切です。よい人間関係の秘訣は愛に満ちた順応性を持つことにあります。

Ⅰ. 夢による啓示

雅歌3:1〜4,5:2〜7にはどんな出来事が記されていますか。二つの記録にはどんな類似点,相違点がありますか。

離別の思い これらの挿話の中で,シュラムの女はソロモンと一緒にいたいのに彼から離されるように感じています。雅歌3:1〜5には,離別の不安に対する理由は述べられていません。彼女はソロモンを捜しますが,初めのうちは無駄です。しかし,夜回りに会ったすぐあとで夫を見つけ不安が解消します。彼女は夫をつかまえて母の家に連れて行きます。

雅歌5:2〜8では,シュラムの女はソロモンの深夜の訪問を拒んでいます。しかしついには彼を中に入れる決心をしたときには,ソロモンは去っていました。初めの挿話と同じく彼を捜しますが,今回は見つかりません。

これらの挿話が夢であることはどこからわかりますか。

二つの挿話を夢と考えるのが最も妥当なようです。

1.夜の出来事(3:1,2,5:2の「夜」,「眠って」,「起きて」という表現と比較)「眠りと明らかな意識とは共存しないので,心のさめているときに眠る〔雅5:2〕ということは夢を表している。心の思いはぼんやりとして残るか夢として投影されるかのどちらかである」(フランツ・デイリッチ『雅歌注解」91ページ)。

2.感情に満ち,不意に終わる出来事 どちらの挿話においてもシュラムの女は次のような経験をしています。

・愛する者を失ったという思い(3:1,5:6)
・懸命に捜すが,見つからない(3:1,5:6)
・夜回りと出会う(3:3,5:7)
・不安と苦しみ

第1の挿話においては愛する者が見つかっていますが,それとて不安がなかったわけではありません。彼女は彼を「引き留めて」(字義的には「しっかりつかみ」),「行かせ」ません(雅3:4)。第2の挿話は夜回りたちの襲撃をもって突然,終わっています(雅5:7)。

3.場面の変化は夢につきもの 第1の挿話においては,彼女は初め自分の寝室(宮殿)にいますが,つぎに町の通り,広場(エルサレム)におり,つぎに母の寝室(レバノン)にいます。第2の挿話においては,寝室の内と外の光景があり,町の通りにいるところを夜回りらに襲われています。

4.実生活にはありえないこと 王妃が町中で王を捜すこと,夜の通りにひとりでいること,家来に襲われるといったことはふつうありえないことです。

Ⅱ. 精神的な苦痛の記録

聖書には,緊張と不安のゆえに眠れなかった人々のことがほかにどのように記されていますか。

エス6:1
詩6:6, 7
ダニ2:1
ダニ6:18

人間関係についての不安や心配はしばしば眠りを妨げ,夢を見させます。聖書には,精神的な不安,緊張,悩みのために眠れなかった人々のことが記されています。心に平安のある人は安らかに眠ることができます(詩4:8)。夢は預言的な啓示をもたらすこともありますが(ダニ2章),ふつうは感情の「レコード」のように心の中にある願望、恐れ、関心、不安などを再生するものです。

シュラムの女の夢は,心中にあるソロモンとの関係の将来についての漠然とした不安を暗示しています。彼女は自分自身と夫とのあいだに隔たりを感じています。第1の夢において4回,繰り返されている「わが魂の愛する者」という言葉は,ふたりの離別に対する不安と苦悩をよく表しています。

質問4 シュラムの女はソロモンとの結婚生活に関してどんな思いを抱いていたと思いますか。彼女が起きて,ソロモンを中に入れようとしなかったのはなぜだと思いますか(雅5:2〜6)。夫はどんなことを感じたでしょうか。次の思いの中でソロモンにあてはまるものに「男」を,シュラムの女にあてはまるものに「女」を,双方にあてはまるものに「男女」をつけてください。

苦痛ねたみごまかし孤独
恨み怒り不満復讐
拒絶不安誤解恐れ
失望無関心
(自分がそう考えた理由を説明してください)

◆ 親しい関係には楽しみと喜びだけでなく苦痛と不安もともなうことを自分の経験によって考えてください。人間関係は私たちの仕事や眠りにどんな影響を及ぼしますか。あなたはどんな方法によって問題を解決しましたか。

Ⅲ. 結婚に対する神の目的

神はどんな大いなる目的のために結婚を制定されましたか。

創世1:28,2:18

創世記には,結婚に対する神の目的として,人類家族が永続することと,人間が互いに愛し,交わり,人生の伴侶を得るためのものであることが教えられています。

「神は男から女を造られた。それは女が男の伴侶となり助け手となり,彼と一体となって彼を慰め,励まし,祝福し,その代わりに男が女の力強い助け手となるためであった。きよい目的,すなわち夫は女性の心の純粋な愛情を得るため,妻は夫の品性をやわらげ向上させて完全なものとするために結婚関係にはいる者は,彼らに対する神の目的を成就している。……キリストは男女が清い結婚によって結ばれ,天の家族の一員として認められるような,りっぱな家庭を育てあげるようにお定めになった」(『アドベンチスト・ホーム』99ページ)。

福音は私たちに対して,結婚において生活を共にし,互いに愛し,思いやり,受け入れ,仕え合うように求めています。

私たちの有意義な人間関係を妨げるものは何ですか。それらの障壁を取り除くためには何が必要ですか。次の聖句は結婚と人間関係についてどんなことを教えていますか。

イザ59:2,エレ17:9,マタ19:8,ロマ7:15〜25,8:1〜14

聖書によれば,私たちと神との関係,また人間同士の関係をむずかしくするのは心です。心とは,「一般的に,さまざまな行動,感情思想の中心をさす」( 「S D A 聖書辞典」4 4 7 ページ) 。私たちの心は自分の態度,行動,他人との関係を支配しています。たとえば,もし私たちの心の奥に劣等感があるなら,それは無意識的に逃避したり,自分の感情を隠したり,交わりを欠いたり,あるいは闘争,非難,支配というかたちをとって外にあらわれてきます。私たちに最も必要なことは聖霊によってすべての行動を導いていただくことです。「キリストの愛に満たされた心は互いに遠く離れることはできない」(「アドベンチスト・ホーム』92ページ)。

◆あなたの心の中には,友人や家族との有意義な人間関係を妨げるものはないでしょうか。どうしたらそれらの障壁を取り除くことができますか。

Ⅳ. 不一致の苦しみ

不一致は私たちの親しい人間関係を妨げるものです。「私たちは性格,習慣,教育において非常に異なっているので,それぞれの物の見方も異なっている。判断も異なっている。真理についての理解,人生についての考え方もあらゆる点で同じであるとは限らない。このことは経験についても言えるoある人にとっての試練は別の人にとっては試練ではない。ある人にとってはたやすい義務も,別の人にとっては非常に困難で,むずかしいものである」(「福音宣伝者』473ページ)。

私たちが不一致にどう対処するかによって,夫婦,家族,友人関係が決まります。お互いに思いやりをもって不一致を受け入れ,すすんで自分を直そうとするなら,より深い永続的な関係に向かって成長することができます。さもないと,不一致は争いを生じ,争いは怒りと葛藤を引き起こしかねません。怒りと葛藤が和らげられないなら,憤慨恨み,反逆,疎外が起こります。あるいは,決して解決することのない論争の種になるかもしれません。ある場合には,どちらかが相手に降伏することによって一致をはかろうとします。しかし,それは自分自身の個性を捨てることです。あるいはまた,逃避することによって自分の生活に閉じこもり,ますます孤立するかもしれません(ポール.ターニャ『お互いを理解する』32ページ参照)。

次の人たちの場合,お互いのあいだにどんな不一致が見られますか。怒りや憤りがどのようなかたちで現れていますか。どんな解決法がとられていますか。

・リベカとイサク(創世24:15〜26,66,67,27:1〜46)
・ハンナとエルカナ(サム上1:1〜2:11,20,21)
・ミカルとダピデ(サム上18:20〜28,サム下6 :16〜23)

◆ 結婚を考えている男女にとって,自分たちの共通点と相違点について考える必要があるのはなぜですか。結婚相手にどこまで順応するように期待すべきですか。もし相手に自分を直す必要があるとして,その意思がない場合には,どうしたらよいでしょうか。寛容にも限度がありますか (Iコリ7:10, 11参照)。

Ⅴ. 不一致における一致

人間関係において問題に直面したときには、どんなみ約束に信頼したらよいですか。

ピリ4:19

否定的な思いを抱かない 「困難や困惑や失望に遭遇しても,その結婚が誤りであったとか, 失望であったかというような気持ちを夫も妻も抱いてはならない。互に相手に対してできるだけ最善のものとなるように決心しなさい」(『ミニストリー・オブ・ヒーリング』333ページ)。

神の選びは最善 「共通の目的についての強い意識,どんな不安の中にあっても自分たちの運命は一つに結び合わされているのだという確信を持つことによって,クリスチャンの夫婦は結婚の誓いにおいて夢見た夢の実現に向かって共に努力する不屈の意志を持つことができる。自分たちの選びは自分自身だけのものではないのだから,ふたりの人生は神の祝福によって豊かなものとなるのだという確信をもって,彼らは満足することができる」(デビット&ベラ・メイス『神のみまえに』70ページ)。

さまざまな気質が調和する 「同じ家族でも,お互いの気質や性格がそれぞれ非常に違っているということがよくあります。いろんな気質の人たちが共に交わるということが神のお考えだからです。ですからこういう場合,家族のひとりびとりが,お互いの感情を大事にし,お互いの権利を尊重しなくてはなりません。こうすることによって,互いの思いやりと忍耐が養われ,偏見がやわらげられ,品性の粗野なところがみがかれていきます。そしてそこに調和が得られ,多種多様の気質の人がまざり合うことによって,互いに益となりうるのです」(『家庭の教育」208ページ)。

シュラムの女は自分の夫をどのように描写していますか。

雅5:10,16

「『万人にぬきんで……はなはだ美しい』おかたについて人々に告げ知らせなさい(雅歌5 : 10, 16)。ことばだけではそれを語ることができない。それを品性に反映し,生活にあらわそう。キリストは弟子たちひとりびとりのうちにご自分が再現されるのを待っておられる」(「各時代の希望』下巻376ページ)。

◆あなたの配偶者,子供,友人などとのあいだに何か不一致はありませんか。それらの不一致を克服して,より強いきずなを築くにはどうしたらよいでしょうか。

まとめ

雅歌はシュラムの女の夢について描写しています。この夢は夫との関係に対する不安が外に現れたものでした。夫婦や友人のあいだの不一致によって争いや分裂が生じたときにも,神の恵みによって,相手の考えを理解し,お互いの感情を思いやることができます。お互いの気質の違いが理解できるなら,そのきずなはさらに強いものとなります。

*本記事は、ロナルド・M・フラワーズ(英:Ronald M. Flowers)著、1992年第4期安息日学校教課『雅歌 愛の歌』からの抜粋です。

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