第9課 ストレスに対処する方法

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ストレスに対処する

健康に大きくかかわってくるのは、私たちがどこに信頼を置き、どのようにストレスに対処するかです。信頼できる相手に相談でき、日々のストレスに対処していくことは、健康上大切なことです。

今日、人間の健康を考える上で、いろいろな臓器に異常がないだけでは健康とは言えないことがわかっています。これまでは主として肉体の健康について取り上げてきましたが、今回は、特に肉体以外の部分について取り上げてみましょう。

心と体の健康が密接に関係していることはよく知られています。昔から「病は気から」といわれるように、心の健康状態は肉体の健康に反映されます。

実際、生きる上で最低限必要な水や食物、寝起きする場所が確保されていれば、その人の健康状態を大きく左右するのは、人の心に影響を与える環境のあり方です。これをマーモット[1]は、「心理社会的要因」と表現しています。

2005年5月に、金沢大学の研究から、トラウマ(心的外傷)を残すような激しいストレスを経験した場合、マウスの実験では、脳で新しくつくられる神経細胞の数が一定期間後に激減することがわかりました。

人間でも心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者では、脳の記憶をつかさどる海馬が萎縮する症例が多いと言われており、脳の神経ネットワークの形成と心の状態に関連があると考えられています。

ストレス(=心身に変化を起こす原因となるもの)は、人の能力を引き出すために働くこともあれば、心身の健康を損なうこともあります。

同じ状況で同じ環境の変化が起こったとしても、その影響は受け手の心身の状態によって大きく左右されますから、一人ひとり異なります。そこで、健康・体力づくり事業財団のホームページ[2]では、心の健康を維持する上で必要な事柄として以下の3つを挙げています。

・自分なりのストレス解消法を持つ

・休養

・相談相手を持つ

人間はもともと社会的な生物です。完全に1人きりでは生きていけません。友人や家族であれペットであれ、何か自分が信頼を寄せることのできる存在が必要です。

さまざまな問題に直面した時に、自分を支え励ましてくれる存在は大きな助けになるだけでなく、なくてならないものであると言えます。

霊的なケアの必要

2005年4月に、精神的な豊かさがアルツハイマー病の進行を遅らせる可能性があるという研究が発表されました[3]

小規模の研究ですが、宗教的な活動や精神的な豊かさを2種類の尺度を用いて評価し、3年間にわたって軽症のアルツハイマー病の患者をフォロー(追跡調査)したところ、高レベルの宗教性および精神的な豊かさが、アルツハイマー病の進行が遅いことと関連したというのです。

このアルツハイマー病に関する研究は、単なる心理的な要因だけでなく、信仰や宗教性といった従来の医療では見過ごされてきた部分もまた健康に影響を与えることを示唆しています。

現代医学では、キリスト教など宗教の背景のある病院であっても医療と宗教を分けて考えることが多く、精神的な豊かさ、霊的な豊かさといったことが取り上げられるようになったのは、日本では比較的最近のことです。

中でも末期がんの患者のケアにあたるホスピスの現場では、生活の質(QOL)を高めるケアを追求する上でスピリチュアルケア(霊的なケア)の大切さが認められるようになってきました。スピリチュアルケアについて窪寺はこのように述べています[4]

「日常生活では、知性・理性など合理性が重視される傾向があるが、スピリチュアルケアは、日常生活では忘れられていた目に見えない世界や情緒的・信仰的領域の中に、人間を超えた新たな意味を見つけて、新しい『存在の枠組み』、『自己同一性』に気付くことである」。

末期がんに直面したときだけでなく、さまざまなストレスに直面したとき、だれでも「なぜ自分がこんな目に遭わなくてはならないのだろうか」と考えます。人間の存在自体に直結する問い、なぜ生きているのか、何のために生きているのか、なぜ病気になるのか、など、このような「なぜ」という質問には科学は答えることができません。

医学が答えることができるのは「どのようにして」病気が起きたか、「どのようにして」予防・改善できるかという部分です。「なぜ」という質問は人間の深いところ、存在そのものの価値や意義にかかわる人間の霊的な側面にかかわるため、全人的な健康を考えるならば、霊的な側面も考える必要があります。

信頼

現代の日本ではいろいろなことがあたりまえになっています。スイッチを入れれば電気がつく、水道の水が飲める、スーパーマーケットやコンビニで買える食べ物が安全で清潔、電車が時間通りに着く、郵便物や宅配便がきちんと届く……。特に考えもしないで利用しているこれらのことは、多くの人々がかかわって可能になります。

もし、自分以外のだれも信じられないとしたら、どうでしょう。当然これらの利用はできません。不安でたまらなくなります。最近ある医師がインターネット上で患者を罵倒した書き込みをして大きな波紋が広がりました。この事件にしても、医療過誤も、信頼を裏切る行為だからこそ大きな問題になるのです。

心や精神の健康、霊の健康は肉体の健康と密接に関係しています。私たちがどこに信頼を置き、どのようにストレスに対処するかが、健康に大きくかかわってきます。信頼できる相手に相談でき、日々のストレスに対処していくことは、健康上大切なことなのです。

キリスト教の一派であるセブンスデー・アドベンチスト教会(SDA)は信頼の基盤を神に置くように勧めます。その上でお互いの信頼を築くように勧めているのです。改めて宗教を見直してみましょう。

社会的に受け入れられないような宗教は論外ですが、精神面での豊かさや霊的な豊かさを与える宗教は確かにありますし、絶対的なものへの信頼が人間を強くすることはよく知られています。その意味では、宗教もまた健康を考える上で重要な要素であると思います。


[1] マイケル・マーモット教授 ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジ(UCL)疫学・公衆衛生学部教授 健康と社会に関する国際センター所長 http://www.ucl.ac.uk/

[2] 健康・体力づくり事業財団 http://www.health-net.or.jp

[3] 57th Annual Meeting of the American Academy of Neurologyより

[4] 窪寺俊之、『スピリチュアルケア学序説』、三輪書店、2004

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