傲慢から破滅へ【ダニエル―主イエス・キリストの愛と品性の啓示】#6

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聖書はダニエル5章において、人間の傲慢というものが衝撃的かつ劇的な形で終わる絶好の実例を示しています。しかしネブカドネツァルは、長い時間がかかったものの、少なくとも自らの教訓を学んだと言えるでしょう。彼の孫、ベルシャツァルは学びませんでした。王宮での飲めや歌えやの大騒ぎに神殿の祭具を用いることで、彼はそれらを汚しました。そのような冒瀆行為は、神への挑戦に等しいばかりでなく、神御自身への攻撃に等しいものでした。このようにベルシャツァルは自分の罪の器を満たし、小さな角に似た振る舞いをしたのです(ダニ8章参照)。その小さな角は神の聖所の基礎を攻撃しました。神はベルシャツァルから支配権を奪うことによって、終わりの時に御自分の民の敵に対して成し遂げられるであろうことを前もって示されたのです。ダニエル5章で語られていることは、紀元前539年に、つまりバビロンがメディアとペルシア両軍の前に陥落した夜に起こりました。ここで、ダニエル2章で予告されていた金から銀への移行がなされたのです。神がこの世の出来事を支配しておられるということが、改めて明らかになりました。

ベルシャツァルの宴会

問1

ダニエル5:1~4を、ダニエル1:1、2とともに読んでください。ベルシャツァルは、どのようなひどいことをしていますか。それは、いかに彼の真の品性をあらわしていますか。彼の行動を黙示録17:4~6と比べてください。どのような類似点を見いだすことができますか。

王は、エルサレムの神殿の聖なる祭具を飲み物の器として使うように命じました。ネブカドネツァルはエルサレムの神殿から祭具を奪いましたが、それらを彼の神の部屋に置いており、そのことは、少なくとも彼が祭具の聖なる状態を尊重していたことを示しています。しかしベルシャツァルは、その聖なる器を最も冒瀆的な形で飲み物の器にしたのです。

ベルシャツァルと彼の貴族たちは、その聖なる器から飲みながら、「金や銀、青銅、鉄、木や石などで造った神々をほめたたえ」(ダニ5:4)ました。六つの素材が言及されている点は注目に値します。バビロニア人は、今日用いられている(数字の10を底とする)十進法ではなく、(数字の60を底とする)六十進法を用いていました。それゆえ、六つの種類の神々はバビロンの神々全体を、つまりバビロンの宗教制度の豊かさをあらわしているのです。とても興味深いことに、この素材の順序は、木が粘土に置き換わっていることを除けば、ネブカドネツァルの夢に出てきた像の構成要素の順序と同じです。夢の中と同様、石は最後に登場します。ここにおいて、石は偶像の組成材料を指していますが、それはまた、バビロンが象徴するこの世の諸帝国に対する神の裁きも連想させます(ダニ2:44、45)。

この宴会は、黙示録で見られるように、終末時代のバビロンを適切にあらわしています。ベルシャツァルと同様、終末時代のバビロンの女は、金の杯を持ち、諸国の民に汚れた飲み物を提供するのです。言い換えれば、現代のバビロンは、偽りの教理と歪められた礼拝制度によってこの世を悪へと誘い込んでおり(黙17:4~6)、裁きが間もなく彼女に下されることは明らかです。いつの日か、裁きは下されます。

招かざる客

問2

ダニエル5:5~8を読んでください。どのようなことが起きていますか。王はなぜそのような反応を示したのですか。この記事はダニエル2章とどのような点が似ていますか。その類似点は、なぜ重要なのですか(詩編96:5、コロ1:15~17参照)。

ネブカドネツァルが先の危機のたびにしたように(ダニ2:2、4:4〔口語訳4:7〕)、ベルシャツァルはその不可解な文字を明らかにするため、祈祷師、賢者、星占い師たちを呼び出しました。そして彼らに最善を尽くさせるため、王は次のような法外な名誉を与えると約束したのです。①紫の衣―古代、紫は王族しか着ない色でした(エス8:15)。②金の鎖―それは社会的に高い身分であることのしるしでした(創41:42)。③王国における第三の支配者の地位。この最後の褒賞は、当時のバビロンの歴史的状況を正確に反映しています。なぜならベルシャツァルは、彼の父親であるナボニドゥスの共同摂政として第二の支配者であったので、第三の地位を提供したのです。しかしこれらの魅力的な褒賞にもかかわらず、知者たちはまたもや解釈を提供できませんでした。

王は、あらゆる罪に加えて、間違った場所に知恵を見いだそうとしていました。バビロンの専門家たちは、メッセージの意味を読み取ることができませんでした。それは、彼らの言語であるアラム語で書かれていましたが、あしたの研究で触れるように、言葉の意味が理解できなかったのです。このことは、主がイザヤを通して語られた言葉を思い起こさせます―「賢者の知恵は滅び/聡明な者の分別は隠される」(イザ29:14)。この聖句を引用したあと、使徒パウロは言いました。「知恵のある人はどこにいる。学者はどこにいる。この世の論客はどこにいる。神は世の知恵を愚かなものにされたではないか。世は自分の知恵で神を知ることができませんでした。それは神の知恵にかなっています。そこで神は、宣教という愚かな手段によって信じる者を救おうと、お考えになったのです」(Ⅰコリ1:20、21)。

真理の中には、あまりにも重要なので、人間が独力で解き明かせないように取り除けられているものがあります。それゆえ、代わりに神がそれらの真理を私たちに明らかにしてくださるのです。

王妃の登場

問3

ダニエル5:9~12を読んでください。王妃はダニエルについて、王がすでに知っていたはずのどんなことを言いましたか。その言葉は、王がダニエルの存在さえ知らないかのように思えることについて、何を物語っていますか。

壁に書かれた不可解なメッセージのために宴会場が混乱に陥ったとき、王妃がやって来て、混乱した王に助言を与えました。彼女は王に、ダニエルのことを思い出させたのです。夢を解釈し、秘密を解き明かす彼の能力は、ネブカドネツァルの時代に実証されていました。もしベルシャツァルが前任者ほど賢かったら、この不可解な文字の意味を知るために頼るべきところを知っていたでしょう。王妃の介入は必要だったとわかります。この時点で王は、次になすべきことがまったくわからず、途方に暮れているように見えるからです。彼女の言葉は、王国の中で不可解な文字を解釈できる唯一の人物を見逃していることに対して、ベルシャツァルを非難しているかのように聞こえます。王妃はまた、ダニエルの履歴を口頭で王に伝えています。この預言者は、聖なる神の“霊”、光、理解力、神のような知恵、すばらしい精神、知識を持ち、夢を理解し、解釈し、謎を解き、難問を解き、ネブカドネツァルの時代に、占い師、祈祷師、賢者、星占い師などの長でした(ダニ5:11、12)。

ここで私たちは、なぜベルシャツァルはダニエルを無視したのだろうかと、改めて疑問に思います。聖句は、この疑問に直接答えてはくれませんが、私たちはこう推測します。少なくともベルシャツァルの治世の第三年まで仕えたあと(ダニ8:1、27)、ダニエルはこの時点でもはや現役の働きをしていなかったのでしょう。一つの要因は、ダニエルの年齢です。彼はたぶん80歳ぐらいであり、王は年老いた指導者を若い世代と置き換えたかったのかもしれません。王はまた、ダニエルの神に献身したくなかったので、彼を無視することに決めたのかもしれません。しかし理由がどうであれ、ダニエルのような地位にあった人が、これほど早く忘れ去られてしまったというのは、やはり印象的です。

秤にかけられ、不足と見られた

問4

ダニエル5:13~28を読んでください。間もなく訪れるこの王の死去に関して、ダニエルはどのような理由を述べていますか。

状況的にやむを得ず、王はダニエルに相談しましたが、どうも不承不承のように見えます。このことは、ダニエルに対してよりも、ダニエルの神に対する王の態度を物語っています。

代わって、王の褒賞の申し入れに対するダニエルの返事は、彼の優先順位や品性について多くのことを物語っています。ダニエルはまた、不思議な言葉の意味を知り、その褒賞がいかに無価値であるかを自覚しているようです。

次にダニエルは、三つの点に関して王に指摘します。

第一に、ベルシャツァルはネブカドネツァルの経験をまったく顧みませんでした。そうでなければ、彼は悔い改めて、謙遜になっていたことでしょう。

第二に、ベルシャツァルは神殿の器を用いて酒を飲み、偶像をたたえました。ダニエルはここで、先に記したとおりの順序で、偶像を作るために用いられている六つの種類の材料に言及しています。

第三に、王は、「あなた〔王〕の命と行動の一切を手中に握っておられる神」(ダニ5:23)に栄光を帰すことを怠りました。

王の失敗を指摘したあと、ダニエルは解釈に進みます。ここで私たちは、天の落書きがアラム語の三つの動詞から成っていることを知ります(最初の動詞は繰り返されています)。それらの基本的な意味は、王も知者たちもわかっていました。「メネ」は「数えられた」、「テケル」は「量を計られた」、「パルシン」は「分けられた」という意味です。

メディアとペルシアの軍隊がバビロンの門前に迫っている状態で、王や知者たちは、その文字の中に不吉な意味を薄々感じたに違いありません。知者たちは王の機嫌を損なうことをあえて言わなかったのです。ダニエルだけが、ベルシャツァルに実際のメッセージの完全な意味を分かる言葉に解読する能力があると証明しました―─「メネ:神はあなたの治世を数えて、それを終わらせ、テケル:あなたは秤で量られ、不足と見られました。パルシン:分けるということで、あなたの王国は二分されて、メディアとペルシアに与えられるのです」(ダニ5:26~28参照)。

心地よい言葉や励ましの言葉などでは、まったくありませんでした。

バビロンの滅亡

問5

ダニエル5:29~30(口語訳5:29~31)を、黙示録14:8、16:19、18:2とともに読んでください。終末時代のバビロンの滅亡を指し示すベルシャツァルのバビロンの滅亡について、私たちは何を学ぶことができますか。

ベルシャツァルの欠点がどのようなものであれ、彼は約束を守る人間でした。それゆえ、悪い知らせにもかかわらず、彼はダニエルの解釈に満足し、約束していた贈り物を預言者に与えました。ダニエルのメッセージの正しさを認めたことによって、王はダニエルの神が実在することを間接的に認めたのでした。興味深いことに、ダニエルは以前に断った褒賞を今回は受け取ります。たぶん、その褒賞がもはや彼の解釈には影響を及ぼさないからでしょう。加えて、その時点でそういった褒賞は、もはや意味がありませんでした。帝国が滅びようとしていたからです。それゆえ、王国の第三の地位にあるのは数時間にすぎないことを知りつつも、儀礼的なこととして、預言者は褒賞を受け取ったのでした。

ダニエルが宣告したとおり、バビロンは滅亡します。しかも、あっという間に滅びました。王と廷臣たちが酒を飲んでいるときに、町は戦わずして陥落しました。歴史家ヘロドトスによれば、ペルシア軍はユーフラテス川を迂回させるために用水路を掘り、川床を歩いて町に侵入したといいます。その夜のうちに、ベルシャツァルは殺害されました。彼の父親ナボニドゥスはすでに町を離れており、のちに新しい支配者のもとに自首します。こうして、人類がその時点までに知っていた最も偉大な帝国は、終わりを迎えました。純金の頭であるバビロンは、もはや存在しません。

「ベルシャツァルには神の御旨を知り、それを実行する多くの機会が与えられてきた。彼は、祖父ネブカドネツァルが人間社会から追放されたのを見ていた。高慢な王が誇りとした知性が、それをお与えになったお方によって取り去られたのを見た。そして、その王が自分の王国から追われ、野の獣を仲間としたのを目撃したのである。しかし、ベルシャツァルの享楽を愛する心と自己称揚は、彼が忘れてはいけない教訓を拭い去ってしまった。そして、前兆となる裁きをネブカドネツァルにもたらした罪と同様の罪を犯した。彼は、憐れみ深く与えられた機会を無駄にし、手の届くところにあったその機会を、真理を知るために用いなかったのである」(エレン・G・ホワイト『聖書は語る』1898年4月25日、英文)。

さらなる研究

大宴会は、古代世界の王宮では日常的なものでした。王たちは、自分の偉大さと自信を示すために、豪勢かつ贅沢な宴会を催すことが大好きだったのです。ほかならぬこの宴会の一部始終はわからないものの、それが、メディアとペルシアの連合軍がバビロンを攻撃する態勢にあったときに開かれたということはわかっています。しかし人間的見地から言えば、心配すべき理由はありませんでした。バビロンは要塞壁と数年分の食糧、さらには大量の水を持っていました。ユーフラテス川が町の中心部を流れていたからです。それゆえ、ベルシャツァル王は、敵が町を包囲しているときに宴会を開いても問題ないと思ったのでした。そこで、彼は重大な祝賀会を命じますが、それはすぐに飲めや歌えやの大騒ぎになってしまいました。(とりわけ主の力とは対照的な)人間の傲慢さの、なんと説得力のある証明でしょう。ダニエルを通して、神は王に言われました―─真理を学ぶべき機会があったにもかかわらず、〔あなたは〕「……あなたの命をその手ににぎり、あなたのすべての道をつかさどられる神をあがめようとはしなかった」(ダニ5:23、口語訳)と。

「諸国の歴史は、今日われわれに語っている。神はすべての国とすべての人間に、神の大いなる計画の中における場所をお定めになられた。今日、人々もまた国々も、誤られることのない神の手の中にあるおもりによって量られているのである。各々は自分自身の選択によって、各自の運命を決定している。そして神はそのすべてを支配して、みこころを達成しておられるのである」(『希望への光』586ページ、『国と指導者』下巻143ページ)。

*本記事は、安息日学校ガイド2020年1期『ダニエル書 主イエス・キリストの愛と品性の啓示』からの抜粋です。

聖書の引用は、特記がない限り日本聖書協会新共同訳を使用しています。
そのほかの訳の場合はカッコがきで記載しており、以下からの引用となります。
『新共同訳』 ©︎共同訳聖書実行委員会 ©︎日本聖書協会
『口語訳』 ©︎日本聖書協会 
『新改訳2017』 ©2017 新日本聖書刊行会

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