墓からの説教【ルワンダの悲劇からの救い】

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身分証

ある日、教会の長老の一人であるビンセントがきて、「逃げましょう、助かるために、別の場所へ逃げましょう」と言ってきました。

「どうやったら逃げられるのか。何か方法がありますか?」と彼に聞くと、彼はわたしの身分証明書を破ることを提案しました。

「嘘はつきたくないのです」とわたしが言うと、「生きるためには嘘をつく必要があります」と彼は説得を試みてきました。

それでも、「わたしの人生は神の手に委ねられています。うそをつきたくないのです」とわたしは答えました。

とうとう彼が折れて、「どうしても嘘をつかないと言うなら、祈りながら行きましょう」と言って、逃げることにしました。

わたしたちは祈った直後に出発しました。ビンセントはとても優しく頭の良い人です。彼はフツ族であるにも関わらず、わたしを助けてくれました。彼はわたしの身分証明書を取り、彼の身分証明書の後ろにくっつけたのです。

「あなたが嘘をつく気がないのなら、わたしが代わりに、あなたがツチ族だというのを隠しましょう」と彼が言って、数々の障害を乗り越えました。

村のいたるところに、ゲートが設けられ、逃げた人はそこで捕まり、殺されていきました。わたしたちがそれらを通り抜けるとき、ビンセントはわたしの前に立ち、「IDを出して」と民兵が言うと、彼は彼自身の身分証明書を見せました。

そして、「IDは?」と彼らがわたしに聞いてきたときには、「わたしの連れの男が持っている」とわたしは言うだけでよかったのです。

そうして、試練を乗り越えました。ところが逃げる最中、あるツチ族の男の子がわたしたちについてくるようになりました。

次のゲートで、また再び身分証明書を持っているかどうか聞かれました。その男の子は、身分証明書を破って捨てていました。証拠がないので、「お前はツチ族に違いない」と民兵たちは言って、その男の子を捕まえてしまいました。

わたしの友人のビンセントはとても良い人だったので、その子を見捨てることはできませんでした。そこでビンセントは、わたしに一人で先に進むように言いました。

わたしはビンセントなしで逃げることに気が進みませんでしたが、わたしにはイエスさまがそばに居てくれると信じ、祈りながら前に進むことに決めました。

キガリの街全体に、虐殺された人が転がっていました。人々は逃げる途中で殺されたのです。「主よ、わたしはツチ族と書かれた身分証明書を持っています。どうぞ、これから、イエスのチカラによって、敵の目を閉じてくださりますように!」とわたしは祈り続けました。

ゲートというゲートを通るたびに、何も問題が起こりませんように。「イエスの名によって守ってください!」と祈ったのです。

すると、面白いことに、神は何度もフツ族の目を閉じてくださいました。

ビンセントと離れ、最初のゲートに着いた時にも心の中でその祈りをささげていました。「あなたの身分証明書はどこにありますか?」と一人の民兵が聞いてきたときに、わたしは正直に身分証明証を彼に渡しました。

彼はそれをひと目見ると、「国内に入ってくる、別の軍隊の車に乗ってはいけない」と言いました。「乗りません」とわたしが約束すると、「身分証明書を持って、早く行け!」とだけ彼は言って、わたしを逃してくれました。

また、別のゲートで、わたしが例の祈りをささげると、民兵は身分証明書を見たにも関わらず、何も言わずに通してくれました。同じようなことが三度起こりました。ところが、4度目はそうはいきませんでした。

四番目のゲートでも、「イエスの名において、彼らの目が閉じられますように」とわたしは同じ祈りをしましたが、

民兵はわたしの身分証明書を手にして、「お前はツチ族だな!」と言い放ったのです。

わたしはまるで神さまが「いったい、いつまで同じお祈りをすれば気がすむのかい?」と呆れて見捨てたように感じました。

ところがその民兵は、なぜかわたしに優しくしてくれて、「僕があなたを助けよう」と言ったのです。

わたしはその時、神さまの御心がわかりました。

「たとえ彼らの目が開け、あなたの身分証明書を確実に見たとしても、わたしが神である限り、あなたは殺されることはありません」。

そう神さまは言われている。これをわたしにわからせるために、そうなったのだと知りました。

その民兵はフツ族がたくさん乗っている車を指差して、「逃げるならあの車に乗りなさい」とわたしに言いました。わたしは、絶句しました。

どうしたら殺人鬼たちの乗っている車に乗り込むことができるでしょうか?

彼らはいとも簡単にわたしを殺すことができます。ですが、その民兵の命令に従うほかありませんでした。

敵ともに

車に近づくと、そこにいた男が、わたしの顔を見て、「彼はツチ族だ!」と言いました。フツ族とツチ族の顔が違っていたからです。「彼は俺たちの敵だ!どうして俺たちが彼を乗せていかないと行けないのだ!」とその男は民兵に叫びました。

すると民兵が「このゲートを通りたいのなら、つべこべ文句を言うな。彼を乗せない限り、ここを通さないぞ!」と言ったので、その男はわたしを乗せざるを得なくなりました。

さまざまなことはありましたが、神の御心により、わたしはその車に乗り込み、旅を続け、多くのゲートをくぐり抜けることができました。

ところが、あるゲートでまた問題にぶつかりました。そこで神は、わたしに別の奇跡を見せようとしていたのです。

「神さま、彼らの目を閉じ、わたしを守ってください」とわたしは懲りずに祈りました。すると今回も、神さまはわたしのこの祈りには答えてくれませんでした。みなさんは、今回の神さまの御心は何だったと思いますか?

わたしがその祈りを祈り終えた瞬間のことです。わたしは今回もこの民兵は前の親切な人のように振る舞うだろうと思っていました。

ですが、彼はまったく親切ではありませんでした。「殺せー!殺せ!奴はツチ族だ!!みんな、集まれー!」と大声で叫んで仲間を呼びました。すべての民兵がわたしの所に集まり、彼らは今すぐにでもわたしを殺そうとしました。

わたしは祈り続けました。「主よ、どうにかして下さい」と祈りました。わたしの側には殺されたばかりの人がたくさん横たわっていました。

「その死んだやつの側で横になって待ってろ!」と民兵はわたしに言います。わたしは恐ろしくなり、横にならずに、立つことにしました。

そして再び、祈りました。

「主よ、あなたはすべてのことをご存知です。あなたがわたしのために何かしてくださることを信じています」

民兵たちは、わたしが移動し、祈っている間も多くの人を殺しました。人々を捕まえ、殺すのに忙しくなり、どういうわけか彼らはわたしの存在を忘れていました。

しばらくして、ある男がわたしに気がついて「あいつを殺さなければ!」と言って、ナイフを持って、わたしに駆け寄ってきました。

「神さま!助けて下さい!彼を止めて下さい!」とわたしは目を閉じ、祈りました。そして、目を開けるとその瞬間、男が回れ右して、反対の方向に進んでいたのが見えたのです。

それから、五分から十分ほど経ったでしょうか?別の人が、わたしがまだ生きていることに気づき、わたしを殺そうとしました。そして、不思議なことに、わたしが祈ると、また同じようなことが起こりました。そして、それは三回続いたのです。

しかし、四回目は少し違っていました。その男も非常に怒っていて、ナイフを持ちながらわたしの方へ走ってきました。「あぁ、もうダメだ……」と思いながら祈ると、その男はわたしの目の前で止まり、わたしの顔をまじまじと見ながら、「あなたは何人だい?」と聞いてきたのです。

神の奇跡

その時です、わたしは神が外見を変えてくださったことを理解しました。

そして、わたしはその男に「わたしは神の人です」と答えたのです。彼は、わたしがあまりにも馬鹿げた返事をしたので、少し困ったような顔をしました。

彼らはツチ族であろうとなかろうと、クリスチャンを殺害していたので、わたしの答えは、まったく無意味なもののように思えました。

しかし、「わたしは神の人です」とわたしは答えたのです。

すると、男はこう言って、ゲートに戻って行きました。

「あなたが神の人だと言うのなら、わたしはあなたを生かしておくべきですね。では、身分証明書をとってきましょう」。

その男が別の民兵と交渉しているのが見えます。しばらくして、彼は戻ってきて言いました。「民兵はあなたの身分証明書を渡す気はありません。あなたを殺すつもりです」。

また彼は「わたしたちが彼らに賄賂を贈ることができるように、あなたはいくらかのお金を持っていますか?」と聞きました。

「お金は持っていない」とわたしが答えると、彼はどこかへと行ってしまいました。実際、多くのツチ族が賄賂を準備して逃れようとしましたが、民兵はそれを拒否して、彼らを皆殺しにして行きました。だから、わたしは賄賂には何の意味もないと思っていたのです。

戻ってきた彼は、「本当に何も持っていないのか?」と聞いてきました。そこでわたしが「わたしはこのラジオしか持っていません」と答えると、「そんなもの誰も受け取らない」と彼は言いました。

そこで、わたしは再びお祈りすることにしました。お祈りが終わり、目を開けると、道の向こう側に座っていた民兵のリーダーが「おい、そこの少年、ここに来なさい」とわたしを指差して言いました。

そこでわたしは彼の方へと向かいました。彼はナイフを持っていましたが、わたしをいちべつしただけで何もせず、他の人と話を続けたのです。

ちょうどその時、わたしの身分証明書を返してもらうために交渉していた民兵がわたしの所に戻ってきました。

彼はとても腹を立てており、「あなたは自分のことを、神の人だと言いましたよね?」とわたしに聞いてきたのです。

「そうです」とわたしが答えると、「神の人と言うなら、自分で行って、身分証明書を要求したらどうですか?」と言ってきたので、そうすることにしました。

身分証明書を受け取りに行こうと、何歩か進んだところで、ある民兵が叫び出しました。「おい!どうでもいいから、ヤツに身分証明書渡せ!そしてこいつを、とっとと追い出せ!」。

その結果、わたしは自分の身分証明書を受け取ることができたのです。他の民兵が不思議そうに、「何か賄賂でもあげたのかい?」とわたしに聞いてきましたが、「何もあげてない」とわたしは答えました。

彼らはみな驚いて、「え?じゃあ、どうして君はゲートを通してもらえるんだ?」と口々に言ったのです。

ただただ、主に感謝と賛美をささげ、わたしは旅を続けることができました。そのような不思議なことが何度も起こったのです。

この出来事は、作り話でも映画のシーンでもありません。わたしの行く道には、大勢の人が死んでいました。前にも、後ろにも、真下にもです。

神の救い

さて、しばらく進むと、また別のゲートがありました。そこに、その男はいたのです。上半身裸の彼は、血だらけで、手にハンマーを持っていました。そのハンマーの反対側には斧がついていました。

その男は、フツ族であろうが、ツチ族であろうが、気に入らない人がいれば、だれかれ構わず、手当たり次第に殺していったのです。気が狂ったように、人々を次から次へと殺している彼は文字どおり容赦のない男でした。

わたしは、側にいた民兵に襟を捕まえられて、その男の前へ連れて行かれることになりました。そのわたしの横を、死体を積んだトラックが走り去って行きました。囚われた人たちも車に乗せられており、周りはまさに、阿鼻叫喚の騒然とした状況でした。

「主よ、この怒り狂った男は人に同情などしないでしょう。ですから、神さまがわたしの代わりに、彼をどうにか対処してください」とわたしは祈りました。

お祈りが終わるや否や、わたしを別の方向に向かって引っ張る手を感じました。民兵の1人がわたしを殺人鬼の方へと引っ張っていく一方、わたしを後ろへ戻そうとする力が働いたのです。わたしの側をたくさんの人が通り過ぎました。

そして、わたしを後ろへと引っ張る男が、わたしを連れて行こうとする民兵へ、「彼をどこへ連れていくつもりだ?」と聞きました。

「行って、身分証明書を見せるつもりだ」と民兵が答えると、後の男は言います。「いや、彼を連れて行ってはいけない」。彼らは何度か同じような会話をしました。一方はわたしを救おうとし、もう一方はわたしを死へと導いていたのです。

最後にわたしの後ろの人が、民兵を説得することに成功しました。「ここに車があります。その車は別の州へ向かっています。どうか彼をこの車に乗せてください」と後ろの男が言うと、「オーケー、いいだろう」とわたしを解放してくれたのです。

わたしは、狂った男の前から、そのように救われたのです。みなさん、神さまのなさるわざは本当に素晴らしいものです。

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