第3課 体を動かしてフレッシュ・アップ

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わかってはいても……

適度な運動が健康によい、ということを否定する人はいないでしょう。ところが、運動したほうがよいのはわかっていてもなかなかできない、という方がほとんどです[1]。その理由として、「時間がない」「何をしていいかわからない」とよく言われます。

そこで、今回は、どんな運動がよいのか、運動がなぜ体によいといわれているのかを見てみましょう。

生理学から見る運動

運動中、体は運動に必要なエネルギーを作り続けますが、その生産効率は酸素をどの程度利用できるかによって変わります。酸素が不十分な場合は、同じ量のグリコーゲンを分解して得られるエネルギーは酸素が十分にある場合のおよそ3分の1になります。

その過程で乳酸が作られますが、これは足がつったり、息があらくなったりする原因となります。酸素が十分にある場合の運動を酸素性運動、不十分な場合を非酸素性運動といいます。瞬発力は非酸素性運動で養われますが、心臓などを助け、ダイエットなどに有効なのは、酸素性運動のほうです。

さて、一定のリズムで大きな筋肉を動かすジョギングや自転車、水泳や縄跳びなどの等張性運動は、筋肉の繊維を一定の力で伸ばしたり縮めたりする運動で、心拍数や心拍出量(心臓が1分間に拍出する血液量)は上昇しますが、筋肉内の毛細血管はむしろ拡張するために末梢血管抵抗は下がります。血圧は運動中に少しだけ上がる程度です。

逆に、瞬発力を要する運動では、筋肉の繊維の長さはほぼ一定(等尺性)でも筋肉にかかる負荷が瞬間的に上昇するため、心拍出量はあまり変わりませんが、末梢血管抵抗が上昇し、血圧も上がります。

心臓にかかる負担は心拍数と末梢血管抵抗や血圧が関係していますから、等尺性運動の方が等張性運動に比べ、より負担が大きいわけです。したがって心臓の機能の調整(コンディショニング)には、酸素性のレベルで行なう等張性の運動がよいことがわかります。

運動のやりかた[2]

運動を始める前には、できるだけ医師の診察(メディカルチェック)を受けましょう。長い間運動をしていない方でしたら、なおさらこれは必須です。体調によっては運動してはいけない場合もあります(表1)ので、気をつけてください。

表1 運動してはいけない場合

(1) 心疾患のある人

  虚血性心疾患、高度の心不全、重度不整脈などの心疾患

(2) そのほか、重篤な疾患がある人

  脳血管障害、重症気管支喘息、高度貧血等

(3) 高血圧、糖尿病、てんかんがコントロールできていない

  場合(治療で改善すれば運動可)

(4) 体調不良時

  睡眠不足、高熱がある、前日の深酒など

食後2時間くらいは運動を避け、消化に支障のないようにします。また、運動時の水分の摂取は重要です。のどが渇くのを待って一気に飲むより、少しずつ水を補給するほうがよいのです。暑い季節は特に水分補給を怠らないようにしましょう。

実際のトレーニングの前に、5~10分の準備体操(ウォームアップ)が必要です。どんなに訓練された選手でも、運動開始時には運動の状態に体が慣れるまでの短時間、非酸素性運動となります。ウォームアップをすることでこれを短縮することができるほか、筋肉から余計な力が抜けますからさまざまなケガの予防にもなります。

トレーニングの時間は、最初は10~12分にとどめておきましょう。個人差はありますが、ケガが起きるのはたいていの場合早く進めすぎるからです。無理のないように、少しずつ増やしていきましょう。

最後に整理体操(クールダウン)を5~10分しましょう。歩行やストレッチングを行ない、体内にたまった熱を放散することで、過剰な発汗や低血圧発作等を予防できます。

運動の強度……中等度の運動とは

時間だけでなく、どの程度の運動をするかも重要です。もっとも手軽でわかりやすい指標は心拍数です。どんな運動であれ、心拍数が上がりすぎると、心臓がついていけずに非酸素性運動となります。

酸素性運動のレベルは、通常、自分の最大心拍数[3]の6~8割です。運動不足が解消されてくるにつれて、運動の強度が上がっても心拍数がそれほど上がらなくなってきます。脈を測るのが苦手な場合、運動しながら息切れせずに話ができる程度の運動がだいたい中等度の運動になります。

運動の効用

定期的な運動の効果があらわれるのは、循環器や筋骨格系だけではありません。よく運動している人は総死亡率が低く、虚血性心疾患や高血圧、糖尿病、肥満、骨粗鬆(そしょう)症、大腸がん、乳がんなどの罹患(りかん)率や死亡率が低いこと、精神的にも健康になることがわかっています。(図1)

また、10代~20代のころに運動不足の男女は、後に生活習慣病になりやすいこともわかっています。その確率は運動不足のグループではなんと最大6倍にもなるというのです。若いうちから体を動かす習慣を身につけることはいろいろな意味で重要なのです。

運動により体脂肪率は着実に減っていきますし、血液中の中性脂肪の値も下がります。有酸素性運動を続けることで善玉コレステロール(HDL)が上がり、狭心症を予防できます。

こういった効用はどのくらいの運動であらわれるのでしょう? さまざまな研究によれば、少しでも運動しているほうがよい、ということです。たとえ10分ずつであっても効果はあります。生活の中で意識的により体を動かそうとすることが重要とされています。体は動かすように作られています。ぜひ、ご自身に合った運動をしていただきたいと思います[4]


[1] 『健康日本21』

[2] Goroll, et. al. Primary Care Medicine, 4th ed. Lippincott Williams & Wilkins, 2000

[3] 健康な方では最大心拍数=220-年齢で計算できる。
〈例〉 50歳の方では、最大心拍数は170、運動の目安は102~136

[4] 年齢や体調、これまでのライフスタイルによって、どんな運動がよいかは異なりますから、実際に運動される場合は、主治医の先生や運動療法士の方とよくご相談ください。

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