第8課 休息のメカニズム

目次

睡眠の重要性

寝ている間、身体は筋肉を休め、各細胞にエネルギーを補充して次の日に備えます。食事に気をつけたり運動を心がけたりすることは健康上大切ですが、十分な休息をとることもそれらと同様に大切なことです。

特に、十分に疲れをとることができないと、精神的にも肉体的にもさまざまな問題があらわれるだけでなく、死期を早める可能性さえあります。

統計によれば[1]、日本人で睡眠・休養を十分とっている大人は男女とも約7割です。ただし、20代~40代の場合は、これが約6割に下がります。言い換えると、実に30~40パーセントもの大人が、十分な睡眠・休養をとれていないことになります。

それでは、睡眠がどういう役割を果たしているか、十分に休養できないとどんな問題が起こりうるか、考えてみましょう。

睡眠のメカニズム

体内の睡眠をつかさどるシステムは大きく2つに分かれます[2]。1つは睡眠という状態を作り出し、もう1つは24時間内に次の睡眠をもたらすタイミングに関係します。どちらのシステムに異常が生じても睡眠障害につながります。

1つめの睡眠を作り出すシステムは、睡眠の長さや質を調節する脳の働きです。睡眠のうち、目が急速に動いている状態をレム(Rapid Eye Movement)睡眠といい、夢を見ること、身体の筋肉は弛緩していることが知られ、記憶情報処理に関係しているとされています。

逆に目の動きはほとんどない状態をノンレム睡眠といい、この状態では脳波の活動が低下していることから大脳の睡眠と考えられています。ノンレム睡眠では、成長ホルモンの分泌や免疫機能増加が知られています。

通常、この2つの睡眠が1セットとなり(約90分)、目覚めるまでに数セット繰り返されます。

2つめの睡眠のタイミングをつかさどるのが生物時計機構と呼ばれるものです。生物時計(または体内時計)は16の遺伝子がネットワークを構成してリズムを作り出すとされています。

ヒトの生物時計の周期は平均約24.2時間ですが、これは環境の明暗に反応して同調するようになっており、夜間はメラトニンというホルモンが高値になって夜間休止する各臓器に信号を送ります。

生物時計の基礎は生後6か月までに作られるとされていますから、この時期までに昼夜の区別をきちんとつけなくてはなりません。

大人になってこのリズムが乱れると不眠やうつ症状などにつながることがありますが、このリズム形成の鍵は朝に働くDNAにあることがわかってきました。言い換えると、生活リズムをつくる上で重要なのは朝だということです。

睡眠の役割

1950年ごろまでは、睡眠は脳や身体が活動していない状態だと考えられていましたが、今ではそうでないことがわかっています。

昔から「寝る子は育つ」と言われます。ノンレム睡眠の間に成長ホルモンがより分泌され、子どもの成長やさまざまな部分の修復を促す働きがあります。細胞の修復や再生、成長には眠りが欠かせないのです。

成長ホルモンの分泌がもっとも多くなるのは入眠後約1時間ですが、就寝時刻が遅くなればなるほど分泌量は少なくなります。したがって、子どもの心身の健康な成長にはなるべく早く寝かせてあげる必要があることがわかります。

眠りが重要な理由は他にもあります。2005年4月に発表された論文では、一晩の睡眠時間が5時間以下の人では糖尿病が2.5倍多く、9時間以上になると1.8倍多かったそうです。

また、短い睡眠時間と心臓発作や死亡率の関連も認められ、大人では毎晩7~8時間の睡眠がよいとする従来のアドバイスを支持するものです[3]。つまり、よい睡眠は病気の予防にもなるのです。

眠れない・休めないわけ

眠れない原因は多種多様ですが、個人の睡眠時間を変える要因には、年齢、生活様式(生活習慣、交代勤務制の仕事など)、季節、体質などがあります。

例えば、夕食が遅くなると、眠る時間になっても胃腸が活動を続けなくてはならず、生物時計が自律神経系の休止を指示したくてもできなくなり、睡眠を妨げる結果となります。また、カフェインは自律神経を刺激しますから、同様に睡眠を妨げます。(表1)

表1 よい睡眠をとるための生活習慣改善の10か条[4]
1 自分の睡眠特性を知る朝型、夜型? 睡眠時間はどのくらい必要?
2 規則的な生活一定の時刻に起床、就寝(こだわりすぎないこと)
3 睡眠が十分かどうかは日中の眠気で判断(「8時間」というわけではない)
4 眠る前にはリラックス
5 眠りを妨げるものを避ける(4時間以内のカフェイン、直前の喫煙など)
6 光の利用日中に日光をとりいれ、夜は明るすぎない照明を使う
7 規則正しく食事朝食は体内時計のスイッチを入れる上で大切
8 適切な運動習慣は睡眠の質をよくする
9 昼寝をするなら30分以内昼過ぎの一定の時刻に
10 睡眠薬が必要な場合一定時刻に服用し、アルコールと併用しない

室内環境も見直す必要があります。室内にはさまざまな音があり、これが睡眠を妨げることもありますし、明るさや温度や湿度も睡眠に影響します。

これは個人の好みもありますが、布団やマットレスの固さ、枕についても考えなくてはなりません。また、ここでは詳しく触れませんが、眠りすぎてしまう病気もあります。

眠れないことが続いたり、無意識に周囲の状況に関係なく眠ってしまうことがあったりする方は、ぜひ医師とご相談ください。

身体と心の休養

睡眠は身体や心の休養に必要ですが、ストレス管理もまた大切です。

運動やストレス管理のプログラムを受講した心臓疾患を持つ患者が、これらを行なわなかった患者よりも経過が良好であったという研究報告が2005年にありました[5]

心臓疾患に限らず、健康な人であっても、心のゆとりが保てないと、いわゆる「燃え尽き症候群」になってしまうことがあります。

人一倍活発に仕事をしてきた方が、なんらかのきっかけで急に活力や意欲を失い、無気力・抑うつ状態に陥ることですが、身体にさまざまな不可解な症状が現れます。

「仕事だけ」にすべての活力を注ぎ、それ以外の人間的な生活の部分が犠牲にされていることが原因となりますが、睡眠をとっていたとしても真の意味で心の休養がとれていないことがその背景にあります。

最近では、家庭での育児や家事と仕事を両立させようと苦しんでいる女性の間でも深刻な問題となってきています。

よい睡眠、気分転換、リクリエーションなどは、ストレス軽減だけでなく心身の休息と回復につながりますから、健康を維持する上で重要な働きを持っています。

時間に追われる日々を送っていますと、睡眠時間や気分転換の時間が惜しいと思われるかもしれませんが、自分自身の健康が損なわれては仕事や勉強どころではありません。皆様の身体と心は、十分な休息を得られているでしょうか?

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[1] 2002年(平成14年)国民栄養調査 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/12/h1224-4.html

[2] Kasper, et. al. Harrison’s Principles of Internal Medicine, Sixteenth edition. McGraw-Hill, 2005.

[3] Gottlieb, D.J. “Association of Sleep Time with Diabetes Mellitus and Impaired Glucose Tolerance” Archives of Internal Medicine, April 25, 2005; vol 165:pp 836-868.

[4] 健康・体力づくり事業財団 健康・体力アップより http://www.health-net.or.jp/tairyoku_up/t03_10_13.html

[5] Blumenthal, J. “Effects of Exercise and Stress Management Training on Markers of Cardiovascular Risk in Patients With Ischemic Heart Disease”. JAMA, April 6, 2005; vol 293: pp 1626-1634.

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