【エステル記】不条理の中での従順さ【2章解説】 

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2:21そのころ、モルデカイが王の門にすわっていた時、王の侍従で、王のへやの戸を守る者のうちのビグタンとテレシのふたりが怒りのあまりアハシュエロス王を殺そうとねらっていたが、 2:22その事がモルデカイに知れたので、彼はこれを王妃エステルに告げ、エステルはこれをモルデカイの名をもって王に告げた。 2:23その事が調べられて、それに相違ないことがあらわれたので、彼らふたりは木にかけられた。この事は王の前で日誌の書にかきしるされた。エステル2:21ー23(口語訳)

目次

王の門に座る

「門」という場所が舞台になることは聖書においては、しばしばあります。ロトは町の門で天使たちと出会い(創世記19:1)、ボアズは町の門で長老たちや親戚と話し、ナオミの嗣業とルツを手にしていきます(ルツ4:1)。町の門は集会所であり、裁判所だったのです(箴言22:22、アモス5:12)

これらを踏まえて、この「王の門に座る」という表現は、おそらく「王宮行政の役職に就くこと」を意味する表現ではないかと考えられています[1]

またモルデカイに暗殺計画が伝えられたのは、偶然ではありませんでした。このことを歴史家のヨセフスは、ある奴隷が陰謀者たちを裏切ってモルデカイに伝えたと記述しています[2]

王の暗殺計画は裏切りにより、モルデカイへと伝えられました。このような情報がもたらされたという事実は、モルデカイが一定の地位を得ていたことを裏付けています。

クセルクセス暗殺計画

暗殺を計画したのは、王のおそらく寝室を警備する宦官であったビグタンとテレシでした[3]。彼らは立場としても王の信頼を得ていた者たちだったのではないでしょうか。

この出来事がいつ頃に起こったか、定かではありませんが、この出来事のおよそ10年ー15年後にクセルクセル(アハシュエロス)は暗殺されていきました[4]。その時のことを歴史家クテシアスは次のように述べています。

アルタパノスはクセルクセスのもとで有力〔近衛隊長─筆者注〕であったのだが、有力宦官のアスパミトレスとともに、クセルクセス殺害を企んだ。彼らはクセルクセスを暗殺し、息子アルタクセルクセスに、同じくクセルクセスの息子であったダレイオスが殺したのだと信じ込ませた。ダレイオスが参上すると、アルタパノスによってアルタクセルクセスの宮殿へと連行された。ダレイオスは、自分は父親を殺していないと声を大にして否定したが、処刑された。

クテシアス『ペルシア史』断片13・33[5]

クセルクセスは、近衛隊長と有力な宦官によって、つまり自分を守るはずの側近たちの手によって暗殺されていきました。

モルデカイが止めた暗殺が、どのような経緯があって計画されたかは記録されていません。

しかし、「怒りのあまり」という動機が記されており、このときも計画した者たちは、王の寝室を警備する者たちでした。クセルクセスは、自身の近くにいる人々の恨みを買うような人物だったのかもしれません。

欲におぼれるクセルクセス

クセルクセスの人間性が垣間見えるのが、エステル記2章19節です。

二度目に処女たちが集められたとき、モルデカイは王の門にすわっていた。エステル2:19

この部分の解釈はいくつかありますが、「処女たち」と書かれていることから、エステルと共に集められた女性たちではありません。王は性的な交わりも含めて、王妃の選出を行い、気に入らなかった女性を再び呼ぶことはありませんでした(エステル2:13,14)[6]

つまり、クセルクセスは王妃を選んだ後も、女性たちを集め、自身の権力を用いて性的な交わりを強要していた可能性があるのです。

この一節はわたしたちに、厳しい環境にエステルが置かれていたこと、そしてそんなエステルのそばにモルデカイがいたことを示しています。

これは完全にただの推測にしかすぎませんが、もしかすると一度目に女性たちが選ばれたときよりも、二度目に女性たちが選ばれたときのほうがモルデカイの地位は向上していたのかもしれません。

19節と21節でモルデカイが王の門にすわっていたことが書かれ、20節ではエステルがモルデカイに絶対的な信頼を寄せていることが描かれています。厳しい環境の中、エステルの少しでも近くにいようとするモルデカイとそのモルデカイに信頼を寄せるエステルの姿が、ここで垣間見ることができます。

クセルクセスに忠実だったエステルとモルデカイ

このような状況の中で、エステルとモルデカイがクセルクセスに忠実であったのは注目に値します。陰謀を企んだ者たちを裏切った人々が、モルデカイのところへ行ったことからも、彼が忠実に仕えていたとわかります。モルデカイはすぐにエステルへとこの事実を伝え、エステルもまたすぐに王へと伝えていきます。

調査の結果、暗殺計画が明るみになると、「この事は王の前で日誌の書にかきしるされ」ました(エステル2:23)。モルデカイとエステルの忠誠心はクセルクセスに印象づけられ、公的な記録に残されたのです。

まとめ

クセルクセスは罪深く、敵が多い人物でしたが、モルデカイとエステルは忠実に仕えていきます。エステルの苦悩と痛みの原因である人物にも関わらず、彼らは仕え、その姿勢は結果的に、彼らの命を救うことにつながっていきました。

そして、不条理な世界で2人取った行動はクセルクセス王のみならず、神の目に留まり、この後の企みを覆す切り札として、神に用いられていくことになるのです。

参考文献

[1] Bush, F. W. (1996). Ruth, Esther (Vol. 9, p. 373). Dallas: Word, Incorporated.

[2] Nichol, F. D. (Ed.). (1977). The Seventh-day Adventist Bible Commentary (Vol. 3, p. 471). Review and Herald Publishing Association.

[3] Nichol, F. D. (Ed.). (1977). The Seventh-day Adventist Bible Commentary (Vol. 3, p. 471). Review and Herald Publishing Association.

[4] 阿部拓児. アケメネス朝ペルシア 史上初の世界帝国 (Japanese Edition) (p.154). Kindle 版.
Reid, D. (2008). Esther: An Introduction and Commentary (Vol. 13, pp. 85). Downers Grove, IL: InterVarsity Press.

[5] 阿部拓児. アケメネス朝ペルシア 史上初の世界帝国 (Japanese Edition) (pp.154-155). Kindle 版.

[6] Bush, F. W. (1996). Ruth, Esther (Vol. 9, p. 366). Dallas: Word, Incorporated.

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そのほかの訳の場合はカッコがきで記載しており、以下からの引用となります。
『新共同訳』 ©︎共同訳聖書実行委員会 ©︎日本聖書協会
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『新改訳2017』 ©2017 新日本聖書刊行会

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