黙示預言の解釈【ダニエル書と黙示録—重要な黙示預言】#1

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この記事のテーマ

時間に関する聖書の思想の特徴は、直線的な時間という思想に立ち、時間には特定の始まりと特定の終わりがあるという考え方です。これは時間を円、循環、流転すると考える他宗教の教えや概念と対照的で、多くの人は、この世は絶えず円のように巡り、決して終わることがないと思っています。聖書は、この世界に特定の始まりがあったこと、特定の終わりがあることを教えています。私たちは過去の歴史を知っていますが、本当に知りたいのは未来のことです。将来どんなことが、いつ、どのような理由で起こるのか、そのことは私たちの生き方にどのような影響を与えるのかということです。

こうした私たちの思いを知る神は、黙示預言という「不思議」な方法で将来を開示してくださいました。神が象徴や比喩という難解に見える方法でメッセージを伝えられたのは私たちに事柄が重要であることを気づかせ、また熱心に真理を探求させるためでした。神はさらに象徴や比喩を解く方法も聖書の中に示してくださっているのです。今週の研究はその方法についてです。

歴史の概念

「だが、秘密を明かす天の神がおられ、この神が将来何事が起こるのかをネブカドネツァル王に知らせてくださったのです。王様の夢、お眠りになっていて頭に浮かんだ幻を申し上げましょう」(ダニ2:28)。

昔から多くの聖書研究者がバビロンに捕囚となっていたこのユダヤ人預言者の言葉を調べてきました。その結果、特にダニエル書2、7、8章の預言から明らかになったのは、ダニエル書が広範囲に及ぶ世界歴史を扱っているということでした。ダニエルが扱っているのは単に一つの時代、一つの国ではなく、何世紀にも及ぶ世界の歴史そのものです。

問1

ダニエル2:38、8:20、21を読みましょう。聖書は4王国のうち3つの名を挙げていますが、預言の範囲は過去のこと、それとも未来だけでしょうか。この聖句を読んで預言解釈上の方法について考えてください。

ダニエルは自分の時代から「終わりの時」(ダニエル書に5回出てくる表現)までの世界歴史について描写しています。このことから、ダニエルの扱っている問題がきわめて広範囲に及ぶものであることがわかります。この事実を知ることは重要です。なぜなら、ある人たちはダニエルの預言がキリスト教以前の過去にのみ適用されると考えるからであり、別の人たちは逆にそれらが現代よりもはるか先の将来の出来事を指すと考えるからです。

ダニエルの預言が彼の時代から終わりの時に至るまでの世界歴史にかかわるものであると結論づけることができるのは、たとえばダニエル書7:17、18で、天使自身がそのように解釈しているからです。多くの聖書解釈者はこれらの預言が終わりの時にかけて次々と出現する国々の歴史であると理解してきました。これは歴史的解釈と呼ばれるもので、SDA預言理解の基礎となっています。

イエスの解釈法

「預言者ダニエルの言った憎むべき破壊者が、聖なる場所に立つのを見たら――読者は悟れ――、そのとき、ユダヤにいる人々は山に逃げなさい」(マタ24:15、16)。(ルカ21:20~22参照)注意深く読んでください。これはイエスご自身が黙示預言(ここではダニエル書)を解釈しておられる数少ない例の一つです。主は聖書解釈に関して非常に重要な原則を明らかにしています。

問2

前後関係を見ながらマタイ24:15、16を読みましょう。イエスは誰に向かって話していますか。どんな質問に答えたのでしょうか。イエスの解釈の背景を考えてみましょう。

キリストの言葉は黙示預言、特にダニエル書を理解しようとする人たちにとって非常に重要なことを教えています。イエスの預言解釈は非常に大事なことを今日に向けて教えています。イエスは“憎むべき破壊者”に関するダニエル書のこの部分(ダニ9:27、11:31、12:11参照)を、地上におけるご自身の時代以後に実現するものとして解釈しておられます。これらの言葉は紀元31年頃にイエスがご自分の弟子たちに語ったのでした。これらの預言がイエスの時代以降に起こることとして述べておられます。

一般的に多くの聖書学者や解釈者はダニエル書の預言はキリストより2世紀前のことと理解しています。つまり、彼らはこれらを預言として考えておらず、また将来や終末の諸事件としてでなく、紀元前2世紀のギリシア王アンテオカス4世のユダヤ人迫害とユダヤの愛国者マカバイの反乱についての記事と解釈しています。ところがイエスの言葉は、イエスの時代以降のことの予告として語ったのでした。一義的にはローマ帝国によるエルサレム滅亡を主は預言したのでした。過去的解釈でなく、歴史的解釈が主の理解でした。

象徴の解釈

黙示文学には多くの象徴が用いられています。これらの象徴は多くの聖書研究者に刺激を与え、霊感を与えてきました。

象徴はある特定の事柄、国、人物、考え、思想を表現します。象徴とそれが象徴するものとの間に必然的な関係がない場合もあれば(たとえば、信者を象徴する木のように)、両者の間に明らかな関係がある場合もあります(破滅を象徴する火)。いつも必ずとは限りませんが、聖書そのものが象徴の意味を説明している場合もあります。

問3

次の象徴と聖句が提示する解釈を考えてみましょう。

金の頭―ダニ2:38

石―ダニ2:44、45

山羊―ダニ8:21

7つの星―黙示1:20

7つの灯火―黙示4:5

水―黙示17:15

竜―黙示12:9

次の点に留意しましょう。(1)象徴の意味が聖句の中にはっきりと示されていて、解釈を助けてくれる場合があります。(2)象徴の意味が前後関係を見ればわかる場合があるので、聖句の前後関係に十分注意を払う必要があります。(3)一つの象徴に複数の意味がある場合は、聖書記者が用いている意味を受け入れるべきです。たとえば、水は命の象徴ですが(ヨハ4:10~14、黙示21:6)、黙示録17:15のように「群衆」を象徴することもあります。

意味が明示されていない象徴の場合、その象徴についてよく調べ、祈りつつ前後関係に最もよく調和する意味を取りましょう。

パウロの預言観

「だれがどのような手段を用いても、だまされてはいけません。なぜなら、まず、神に対する反逆が起こり、不法の者、つまり、滅びの子が出現しなければならないからです。この者は、すべて神と呼ばれたり拝まれたりするものに反抗して、傲慢(ごうまん)にふるまい、ついには、神殿に座り込み、自分こそは神であると宣言するのです。まだわたしがあなたがたのもとにいたとき、これらのことを繰り返し語っていたのを思い出しませんか。今、彼を抑えているものがあることは、あなたがたも知っているとおりです。それは、定められた時に彼が現れるためなのです。不法の秘密の力は既に働いています。ただそれは、今のところ抑えている者が、取り除かれるまでのことです。その時が来ると、不法の者が現れますが、主イエスは彼を御自分の口から吐く息で殺し、来られるときの御姿の輝かしい光で滅ぼしてしまわれます」(Ⅱテサ2:3~8)。

問4

預言解釈という今週のテーマを考えながら、上記の聖句を注意深く読んでください。パウロはここで再臨のクライマックスとなる一連の預言的事件に言及しています。起こるべき出来事の順に書いてみましょう。

パウロによれば、これらの出来事のいくつかはすでに彼の時代に始まっていました(「不法の秘密の力はすでに働いています」7節)。パウロもダニエルと同様に、黙示預言の実現を歴史の流れの中で、つまり自分の時代に始まり、世の終わりにおいて最高潮に達するものとして理解しています。ここにもまた、預言的事件が歴史的な流れの中で起こると考える歴史的解釈のはっきりとした実例を見ることができます。パウロは明らかに、すべての預言が過去のある時点で実現したとする見解(過去的解釈)に同意していませんし、また、すべての預言がはるかな未来のある時点で実現するとする未来的解釈の立場を受け入れてもいません。

キリスト中心の解釈(ルカ24:27、ヨハ5:39)

黙示預言の第一目的は最終諸事件の予告ではなく、歴史の流れを支配しようとする悪魔を打ち破るキリストを紹介することにあります。ダニエル書は黙示預言の中で様々なイエスの称号を書き、キリストがダニエル書の預言の中心であることを啓示しています。

問5

ダニエル書に出てくる下記の語句と聖句を組み合わせてみましょう。誰を象徴していると思いますか。

ダニエル7:13、8:11、8:25、9:25、9:26、10:13、10:21、12:1

油注がれた君、人の子、天の万軍の長、大天使ミカエル、大天使長ミカエル、天使長ミカエル、最も大いなる君、油注がれた者

黙示録もキリストが最後の大争闘における中心人物であることを強調しています。この書はキリスト論的な称号で満ちていますが、それらは救い主の多様な働きを示しています。キリストは地上の王たちの支配者(黙示1:5)、神の子(2:18)、獅子・ひこばえ(5:5)、小羊(5:6)、神の言葉(19:13)、王の王、主の主です(19:16)。私たちはキリスト、しかもキリストによってのみ贖(あがな)われ(5:9)、罪から清められ(7:14)、悪に勝利します(12:11)。最後の闘争において、キリストとキリストの民に戦いを挑む勢力は滅ぼされます(17:14)。私たちが聖書の中で繰り返し「喜びなさい、信じなさい」と教えられているのはそのためです。神は世を支配しておられます。キリストは十字架においてすでに私たちをあがない、敵を打ち破られました。主は私たちのために完成された救いを受け入れるように招いています。キリストが私たちの罪のために法的な刑罰を受けられたゆえに、彼の犠牲を受け入れる人はだれひとり自身で刑罰を受ける必要はありません。

まとめ

黙示的預言を研究するとき、そこに偉大な世界的王国興亡の歴史を見ることができます。今週学んだダニエル、イエス、パウロの言葉を読むとき、預言に対して歴史的解釈というアプローチを取っていることに気づきます。ただ過去、あるいは未来の出来事としてでなく、聖書自身が過去、現在、未来に関わる預言であることを教えています。こうした立場を取るとき、神は過去も現在も、そして未来もご支配してくださるという慰めと励ましを得ることができるのではないでしょうか。

『患難から栄光へ』下巻282~300ページ(ヨハネ、黙示録を書く)を読んでください。

黙示預言についての歴史的解釈の立場は「初期の教父たちによって5世紀まで用いられていたものでした。リロイ・E・フルームによれば、預言の解釈に大きな変化が起きたのは、アウグスチヌスが神の国をキリスト教会と定義し、千年期を霊的に解釈して、キリスト教時代の象徴としたときからです(『我らの父祖たちの預言的信仰』第1巻473~491ページ)。彼の見解は中世において支配的となり、プロテスタント改革期まで続きました。再び歴史的解釈をダニエル書と黙示録の解釈法として復活させたのは宗教改革者たちでした」(『SDA百科事典』698、699ページ)。

「黙示録には神の奥義が描かれている。……その真理は、ヨハネの時代に生きていた人々と同様に、この地上歴史の最後の時代に住む人々にもあてられている。この預言に描かれている場面のあるものは過去に起こったものであり、あるものは今起こりつつある。またあるものはやみの権力と天の君との大争闘の終結を見させ、またあるものは新しくされた地に住むあがなわれた者たちの勝利と喜びを表している」(『患難から栄光へ』下巻288ページ)。

ミニガイド

【ダニエルの時代】黄金時代を誇ったダビデ・ソロモンの王国は前931年に分裂し、北の国イスラエルはどう猛なアッシリア帝国によって滅ぼされ(前721年)、預言者たちが警告したにも関わらず、悔い改めないユダも同じ運命をたどりました。バビロン王ネブカドネツァルは前605年にユダを攻め、ダニエルら王族の若者たちは異教バビロンに捕囚となりました。さらに攻撃は続き、597年、そして586年にはエルサレムは完全に占領されました。列強がひしめく中東の国々に翻弄(ほんろう)されて神の民は今後どうなるのか、いつまでこの捕囚の屈辱は続くのか。メシア来臨の約束も潰れ去るのか……。

こうした絶望的な時代にダニエルは苦難の民に希望を与える将来を約束しました。ダニエル書は第一義的には捕囚にある民に光を与える役目を果たしました。

【預言の解釈】旧約のダニエル書、新約の黙示録はいろいろな象徴や比喩で書かれているために理解するのが困難に見えます。それにもかかわらず、主は弟子たちに「預言者ダニエルの言った憎むべき破壊者が、聖なる場所に立つのを見たら――読者は悟れ――」(マタ24:15)とダニエル書を引用して時代の警告をされました。過去の歴史の中で多くの人たちが預言を解釈し、中にはとっぴな教えを説いて人を惑わしました。19世紀のSDA指導者たちは祈りとともに預言の研究をしましたが、彼らは預言の語句を聖書の言葉で解釈するという方法で研究を進めました。この聖書研究ガイドでもたびたび別の場所の聖句を引用して語句の意味を解釈しようとしていることに注目してください。預言の勉強では勝手な解釈をしないように慎重な態度が必要です。キリスト教会には黙示録などの預言の解釈にいくつかの派があります。

〈歴史的解釈〉将来に関わる預言は世界の歴史において成就し、キリスト再臨をもって完結する。

〈過去的解釈〉当時の状況下で書かれ、過去において既に成就している。

〈未来的解釈〉預言は世界歴史の終わりに現れる反キリストの滅びによって成就する。

〈霊的解釈〉各時代におこる善と悪の永遠の戦いを代表し、義は最終的に勝利する。黙示語句は特別な歴史事件と関係ない。アドベンチスト教会は、基本的には16世紀の宗教改革者たちと同じ歴史的解釈の立場を取っています。

*本記事は、神学者アンヘル・M・ロドリゲス(英: Angel Manuel Rodriguez)著、安息日学校ガイド2002年2期『重要な黙示預言』からの抜粋です。

聖書の引用は、特記がない限り日本聖書協会新共同訳を使用しています。
そのほかの訳の場合はカッコがきで記載しており、以下からの引用となります。
『新共同訳』 ©︎共同訳聖書実行委員会 ©︎日本聖書協会
『口語訳』 ©︎日本聖書協会 
『新改訳2017』 ©2017 新日本聖書刊行会

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