この記事のテーマ
聖書の中で私どもの信仰を強め、励ましてくれる預言はダニエル書2章と7章です。これら二つの章の中で、ダニエルは神の力によって自分の時代から私どもの時代まで、そして神が最後の王国を確立される世の終わりまでの世界の歴史を描写しています。神はこれらの2章の中に、聖書の霊感を信じる上で必要な合理的根拠を与えておられます。ダニエル書2章と7章は同じ出来事を異なった視点から描いています。2章は地上の諸国の興亡を強調していますが、7章は永遠の王国が確立されるまでの神の民の経験を強調しています。また、2章は王国の歴史に焦点を当てていますが、7章は神の民と世俗権力との対立を強調しています。ダニエル書2章と7章に見られる預言は歴史を、一般歴史書には見られない次元に立って、霊的な角度から描いています。これらの章は純粋に宗教的な記録であって、この世の歴史が神の活動の領域であるということを示しています。両章はまた、神の王国が地上の国に勝利するという結末をもって終わっています。「人の子」は重要な役割を果たし、神の民は彼によって王国を受け継ぎます。
並行した二つの幻
ダニエル書2章と7章は異なった象徴を用いていますが、内容は互いに並行しています。
《ダニエル書2章》 | 《ダニエル書7章》 |
純金(32節) | 獅子(しし)(4節) |
銀(32節) | 熊(5節) |
青銅(32節) | 豹((ひょう)6節) |
鉄(33節) | 第4の獣(7、8節) |
神の国(34、35節) | 神の国(14節) |
主は最初の3王国をダニエル書の中で明示し、第4の象徴も誤解の余地がないほどに明らかにしておられます。純金と獅子で象徴される第1の王国はバビロンです(ダニ2:38)。銀と熊で代表される第2の王国はダニエル5:28、30、31、8:20でメディア・ペルシア帝国であると言われています。第3の王国は青銅と豹で象徴され、ダニエル11:2によればギリシアです。第4の王国(鉄と第4の獣)の名前は明示されていませんが、世界歴史に当てはまる国はローマ以外に考えられません。
問1
ダニエル書2章とダニエル書7章のどのような特徴から第4の王国を“ローマ”と解釈するのでしょうか。
神学者はこの二つの章を“要点の反復、繰り返し”と受け取っています。単純に繰り返されている預言があり、異なった角度から、その基本的なメッセージを補強するように繰り返されている場合もあります。同じ歴史期間を異なった観点から描き、それぞれの出来事に含まれる新たな要素を啓示するというケースです。ダニエル書2章と7章はバビロンの時代から地上歴史の終わりまでを描写しています。7章は2章の内容を繰り返してはいますが、同時にそれを拡大・発展させているのです。
第4の獣
「第4の国は鉄のように強い。鉄はすべてを打ち砕きますが、あらゆるものを破壊する鉄のように、この国は破壊を重ねます」(ダニ2:40)。「更にわたしは、第4の獣について知りたいと思った。これは他の獣と異なって、非常に恐ろしく、鉄の歯と青銅のつめをもち、食らい、かみ砕き、残りを足で踏みにじったものである」(ダニ7:19)。
問2
第4の王国を象徴する特徴を挙げてください。
ローマ帝国を表す獣はほかの獣とは全く異なっています。ダニエルはそれを「ものすごく、恐ろしく、非常に強く」(ダニ7:7)と表現しています。この国は敗れたことのない国、また戦争によって征服されたことのない国でした。『ケンブリッジ古代史』によれば、「紀元前3世紀末以降のローマの政策は攻撃的なものであって」、その目的は交渉によって紛争を解決することよりも、戦争を回避できないような要求を他国にすることにありました(A・E・オースチン編、第8巻382ページ)。被征服民族へのローマ帝国の態度は、「鉄の歯」(ダニ7:19)の表現通り残酷極まりないものでした。
問3
強力なローマ帝国はどうなるでしょうか。ダニ2:41、7:24
ローマ帝国が崩壊した背景として多くの理由を挙げることができます。「帝国を崩壊させたものは、4世紀の後半において絶えず繰り返された大規模な侵略であった」(『新ブリタニカ百科事典』第15版15巻1132ページ)。
小さな角(その1)
「この大いなる教会主権の起源について考える者は、教皇権こそが亡きローマ帝国の墓の上に冠を戴い(いただ)て座す、亡きローマ帝国の亡霊にほかならないことに容易に気づくであろう」(トマス・ホッブス〔17世紀、英国の哲学者〕『西洋世界の偉大な書物に見るレビアタン』278ページ)。
問4
小さい角の出現状況を読んでください。どんな特徴が見られるでしょうか。ダニ7:8、24
小さな角によって表される権力は、ダニエル書7章を解釈する上できわめて重要です。その特徴を挙げてみますと、(1)それは第4の獣から出現します(ダニ7:24)。したがって小さい角はローマ帝国とは別のものではなく、その一部です。(2)それは10本の角の後に出現します(7:8)。10本の角はローマ帝国の崩壊と分裂を表しています。小さな角はローマ帝国の崩壊後に現れました。(3)それはほかの角よりも大きく見えます(ダニ7:20、字義的には「その外見は仲間よりも大きかった」)(4)それは10本の角のうちの3本を引き抜きます(7:8)。小さな角は権力の偉大さを行使し、3つの国を滅ぼしました。ローマ帝国の廃虚の中から出現して分裂した欧州諸王国の中で指導的な影響力を持つに至った新権力はローマ教会です。歴史家R・P・C・ハンソンによると、「(教会は)外見的には自らの成長をもたらした社会の恐るべき、空前の崩壊に対して準備ができていなかった。しかし、危機がやって来たとき、教会はそれに対処し、耐え、生き残り、ついには異民族の侵入と定住という新たな状況下で、全欧を支配するだけの権力を自らのうちに見いだした」(「教会と西ローマ帝国の崩壊」『初代教会における教会と国家』第7巻385ページ、1993年)のです。
小さな角(その2)
「彼はいと高き方に敵対して語り/いと高き方の聖者らを悩ます。/彼は時と法を変えようとたくらむ。/聖者らは彼の手に渡され/1時期、2時期、半時期がたつ」(ダニ7:25)。ダニエルは小さな角の権力、つまり教皇制ローマの特徴について詳しく説明しています。たとえば――(1)神に敵対して語るこの教会はその教権によって与えられた権威をもって語り、教義と信仰を規定し、これらに対する服従を要求します。その過程において、真理と虚偽が混ざり合いました。結果として、聖書的でない教えが真理として受け入れられました(たとえば、霊魂不滅、告解の(こっかい)秘跡、(ひせき)煉獄、(れんごく)聖人の執り成し、など)。(2)聖者を悩ます教えに従わない人々は迫害され、殺されました。異端審問(宗教裁判)においては、教会の「敵」に対して拷問が用いられました。「1252年に、〔教皇〕インノケンティウス4世は異端者に俗権によって拷問を加えることを是認したので、後に拷問は宗教裁判所の手続きにおいて公認されることになった」(『新カトリック百科事典』第14巻208ページ、「拷問と教会」、1967年)。(3)律法を変える教会と国家の結合がもたらした最も大胆な行為は、神の律法を変えたことです。聖書的安息日である第7日安息日は日曜日に変更されました。この変更は教会の教権に基づいてなされ、今日もカトリックと大部分のプロテスタント教会の安息日となっています。カトリック資料には次のように記されています。「われわれが土曜日の代わりに日曜日を守るのはなにゆえか。われわれが土曜日の代わりに日曜日を守るのは、カトリック教会……が神聖さを土曜日から日曜日に移したからである」(ピーター・ガイアマン『カトリック教理に関する改心者の教理問答』、1937年)。
時に関する最初の黙示
「聖者らは彼の手に渡され/1時期、2時期、半時期がたつ」(ダニ7:25)。ダニエル7章のほかの権力と異なり、この小さな角の権力には一つの特別な特徴があります。つまり、ダニエルの黙示預言に時が初めて出現することです。この章に出てくる王国の中で時の預言と密接な関係にある王国はこれだけです。ダニエル7:25の時に関するこの預言は小さな角とどう関係があるのでしょう。預言において「日」は「年」を象徴しています。この原則は長く、多くの聖書学者によって認められてきました(ユダヤ聖書注解者たちはSDAが誕生する何世紀も前からこの“1日1年説”の原則を聖書に適用しています)。旧約聖書にはこの原則の実例がいくつも見られます。たとえばサムエル記上20:6に、「一族全体のために年ごとのいけにえをささげなければなりません」とありますが、この中の「年ごと」は実際には「日ごと」となっています。
問5
1日1年説のヒントが聖書にあるでしょうか。列王下1:1、創世6:3、民数14:34、エゼ4:6
ダニエル7:25の「1時期、2時期、半時期」は黙示録12:6で1260日として描かれています。1日が1年であるとするなら、「1時期、2時期、半時期」、つまり1260日は1260年ということになります。したがって、小さな角の支配は、12世紀以上続くことになります。侵入したアーリア人がローマから退却した後、紀元538年に教皇制ローマが台頭する道が備えられました。驚くべきことにそれからちょうど1260年後の1798年に、フランスのベルティエ元帥はローマ・カトリック教権を終わらせる目的で、教皇ピウス6世を捕らえて追放しました。事実、1798年以前にも、これらの預言を調べて19世紀の初めにかけてローマに何か重大な事件が起こると考えた聖書学者がいました。まさにその通りになりました。『SDA聖書注解』(「1時期、2時期、半時期」の項参照)
まとめ
ダニエル2章と7章は互いに補足しあって、霊的視点から歴史を注視しています。これらの幻は正確に古代諸国の興亡、宗教権力について記述しています。聖書はこの制度、組織をそれぞれがしっかり知ることを求めています。研究を続ければ続けるほどその理由は明らかになることでしょう。
『各時代の大争闘』上巻43~58ページ(中世の霊的暗黒時代)を読んでください。
【獣と小羊】「地上の権力を表すのにどう猛な獣の幻がダニエルに与えられています。しかしメシアの王国の象徴は小羊です。地上の王国は力によって支配しますが、キリストはすべての世俗的武器、すべての強制手段をお捨てになります。キリストの王国は堕落した人類を引き上げ、高めるために建国されるのです」(『SDA聖書注解』第4巻1171ページ、エレン・G・ホワイト注)。
【教会の背教】「初代教会は、福音の単純さを離れて堕落し、異教の儀式と習慣を受け入れたときに、聖霊と神の力を失った。そして、人々の良心を支配するために、世俗の権力の援助を求めた。その結果が、法王権であって、それは、国家の権力を支配し、それを教会自身の目的、特に『異端』の処罰のために用いた教会であった」(『各時代の大争闘』下巻162,163ページ)。
*本記事は、神学者アンヘル・M・ロドリゲス(英: Angel Manuel Rodriguez)著、安息日学校ガイド2002年2期『重要な黙示預言』からの抜粋です。