【列王記・歴代誌】ソロモン家の台頭と没落ー反逆と改革【解説】#3

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【多くの外国の女】

列王記上3:3には「ソロモンは主を愛し……」とあり、同11:1には「ソロモン王は……多くの外国の女を愛し」とあります。ソロモンの心は神への愛から「多くの外国の女」への愛へと移っていきます。何という隔たりでしょう。今回の研究はこれらの聖句の間で展開します。

それはまた、次の聖句にも見られます。「主はソロモンのこの願いをお喜びになった」(列王上3:10)。「ソロモンの心は迷い、イスラエルの神、主から離れたので、主は彼に対してお怒りになった」(列王上11:9)。この対照的な聖書のどちらを見ても、物語は悲しく、つらく、そして何よりも教訓に満ちています。その内容は独特のものですが、その原則は時代を超えて現代の私たちの生き方にも通用します。

今回の研究で偉大であったソロモン王の出発点を学びましょう。彼が建てた神殿が果たした役割と教訓は国内だけでなく、国外にも意図するものがありました。ソロモンの堕落への道と結果は教訓となります。

黄金時代(列王上4章)

「ユダとイスラエルの人々は海辺の砂のように数が多かった。彼らは飲み食いして楽しんでいた」(列王上4:20)。

長く苦難に満ちたヘブライ民族の歴史の中でも、ソロモンの治世ほど平和と富と繁栄を享受した時代はほかにはありません。「聖書はソロモンの治世を前例のない繁栄の時代として公正に描いている。イスラエルは空前絶後の平和と物質的豊かさを享受した。そのおかげで、平和な芸術が豊かに開花した」(ジョン・ブライト『イスラエルの歴史』217ページ、1981年)。

ヘブライ民族は多くの点で、神が従順を条件として約束された数々の祝福を享受しているように思われました。

問1

申命記28:1~14に約束されていた祝福を、ソロモンの時代の彼らの経験と比較してください。

約束(申命28:1~14)    結果(列王上4章)

神がヘブライ民族を興されたのは一つの理由からでした。彼らが信仰による救いのメッセージを世界に宣べ伝え、世の人々がヘブライ人の成功を見て、その偉大さ、知恵、繁栄の源を知るようになるためでした。申命記4:6~8を読み、それを列王記上5:9~14(口語訳4:29~34)と比較してください。列王記はソロモンに焦点を当てていますが、原則は同じです。神が彼らを祝福されたのは、彼らが神の律法と戒めを守ったからであり、その結果、彼らの生き方が世の人々の関心を引きつけることになったのでした。

これと同じ原則が、今日、教会としての私たちにも当てはまります。Ⅰペトロ2:9を読んでください。

ソロモンの神殿(列王上5、6章)

「ここに至ってわたしは、わたしの神、主の御名のために神殿を建てようと考えています。主が父ダビデに、『わたしがあなたに代えて王座につかせるあなたの子が、わたしの名のために家を建てる』と言われたからです」(列王上5:19)。

神はソロモンの祖先に与えられた約束に従って、イスラエルを建国されました。その目的は世に救いの計画を告げ知らせることでした。言うまでもなく、救いの中心はイエス・キリストです。「わたしたちは、この御子によって、贖い(あがな)、すなわち罪の赦しを得ているのです」(コロ1:14)。イスラエルはまことの神について、また衛生、食事、家族関係について世に教えましたが、最も重要なのはメシアを通してもたらされる罪のための犠牲について教えることでした。ソロモンの建てた神殿の中で行われる聖所の儀式、礼拝において救いの計画が教えられるはずでした。それらがイスラエルの中できわめて重要な位置を占めていたのです。

問2

神殿は非常に精巧な建造物で、建築に7年かかりました(列王上6:38)。この計画が神の祝福を受けていたとはいえ、これほどぜいたくなものにする必要があったのでしょうか。それだけのお金と労力をほかのものに使うことができなかったのでしょうか。これほど精巧なものに仕上げることには何か目的があったのでしょうか。

いかに神殿が重要であるとはいえ、本当に重要なのは建物や儀式そのものではありませんでした。なぜならそれらは天におけるキリストとその働きの実体を指し示す一時的な手段、地上の事物にすぎなかったからです(ヘブ8:1~5)。重要なのはむしろ儀式から学ぶべき霊的教訓のほうでした。

ソロモンの献身(列王上8:22~66、歴代下1:6~12)

「僕とあなたの民イスラエルがこの所に向かって祈り求める願いを聞き届けてください。どうか、あなたのお住まいである天にいまして耳を傾け、聞き届けて、罪を赦してください」(列王上8:30)。

ソロモンの献身の祈りには深い神学がありますが、繰り返し述べられている主題が一つあります。赦しです。ソロモンが祈りの中で何度赦しに言及しているか数えてください。もし私たちが罪を犯すなら、主よ、どうか、赦してください。これがソロモンの祈りの中で繰り返し語られているテーマです。神の民には赦しが必要です。それはソロモンの時代に限られたことではありません(Iヨハ1:8~10)。

問3

ソロモンは列王記上8章において自分の民が赦しを必要とするような罪を犯すと言っています。それらはどんなことですか。イスラエルに警告している申命記28章と比較してください。

列王記上8:41~43を注意深く読んでください。ここにはイスラエルの宣教者、伝道者としての側面がはっきりと描かれています。その後、数世紀の間に、民は自分たちの宗教を排他的な社交クラブに変えましたが、それは決して神の意図されたことではありませんでした。確かに神はイスラエルを世から聖別されましたが(53節参照)、それは彼らを御自分の証人とするためでした。

「わたしはあらかじめ告げ、そして救いを与え/あなたたちに、ほかに神はないことを知らせた。/あなたたちがわたしの証人である、と/主は言われる。/わたしは神……」(イザ43:12)。イスラエルは世界伝道の中心、そして神殿は伝道活動の拠点となるはずでした。

ソロモンの失敗その1(列王上11:1~13)

何世紀もたった今、あれほど豊かに祝福されていたソロモンがなぜ失敗したのか不思議に思われます。列王記上11章の初めの2節がすべてを語っています。ソロモンは神の命令に背いて外国の女をめとりました。彼女たちは神が警告しておられた通り、ソロモンの心を父祖たちの神から引き離しました。ソロモンが堕落していった過程に注意してください。

  1. めとるべきでない女たちをめとった(1、2節)。
  2. 女たちはソロモンの心を神から引き離した(3節)。
  3. アンモン人の「憎むべき神」に従った(5節)。
  4. これら異教の神々のための礼拝所を築いた(7、8節)。

問4

けんそんソロモンがまだ謙遜で主に従っていた時期に、もしだれかが彼に「あなたはいまに異教の神々のために祭壇を築き、憎むべきことを行うようになるでしょう」と言ったなら、たぶんソロモンは一笑に付したかもしれません。しかし、ソロモンに関する記事を注意深く読むと、彼がまだ栄えていた時期でさえ正しい道からそれる兆しがありました。王に関する規定について述べた申命記17:15~20を読み、ソロモンが堕落以前にもどんな点で妥協しているか調べてください(『国と指導者』上巻30、31ページ参照)。

「ソロモンの心は迷い、イスラエルの神、主から離れたので、主は彼に対してお怒りになった。主は二度も彼に現れ、他の神々に従ってはならないと戒められたが、ソロモンは主の戒めを守らなかった」(列王上11:9、10)。神がソロモンにお現れになった場面を両方とも読んでください(列王上3:5~15、同9:1~9)。どちらの場合にも、神からの大いなる祝福の約束は服従を条件に与えられたものでした。

ソロモンの生涯はいくつかの興味深い問題を提起しています。主は何か驚くべきことを行って、ソロモンに“わが子よ、目を覚ましなさい!さもないと、あなただけでなく、あなたの民全体にも災いが臨みます”と警告されなかったのでしょうか。聖書にはそのような警告のことは書かれていません。ソロモンの経験は、私たちに自由が与えられており、その自由が不幸をもたらす可能性を秘めていることを教えています。主に畏敬の念を持って祈る必要があります。

ソロモンの失敗その2

エレン・ホワイトによれば、ソロモンが悔い改めたのは、主の裁きが宣告された後のことでした(列王上11:9~13)。「ソロモンは彼と彼の家に対するこの刑罰の宣告によって、夢からさめたかのように、本心に立ち返り、彼の愚行の真相を見始めた。彼は神の懲らしめを受け、精神も体も衰弱して疲れ果て、かわき切って、世の水がめから離れて、もう一度生命の源の水を飲むために帰ってきた。ついに、苦難の懲戒は彼に対する務めをなしとげたのであった。彼は愚かな行為から離れることができなかったために、長い間、永遠の滅びの恐怖にさいなまれていた。しかし、彼は今、彼に与えられた言葉のなかに希望の光を認めたのである。神は完全に彼を切り離されたのではなくて、彼を死よりも残酷な束縛から助けようとして、待ち構えておられたのである。そして、彼はそれから自分を解放する力を持っていなかったのである」(『国と指導者』上巻52ページ)。

問5

ソロモンの堕落を理解できないことはありません。彼に与えられていた富、権力、知恵を考えれば、だれがこのような誘惑に耐えることができるでしょう。同じ状況にあって自己賞揚から守られるのは、神に全く信頼している人、自分の罪深さ、弱さ、価値のなさを痛いほどよく知っている人だけです。キリストの十字架はどんな意味で、ソロモンが陥ったうぬぼれから私たちを守ってくれますか。

聖書の宗教は物質的な豊かさを悪とは見ません。神は世界を造り、物質的事物を作り、それらを「良し」とされました(創世1章参照)。私たちは神にあって物質世界を楽しむように物質的な存在として創造されています。楽しみ、喜ぶことは決して悪ではありません。それは神の賜物です。

しかしながらソロモンの問題は、快楽のために完全に理性の抑止力を失ったことです。富そのものは悪ではありませんが、それを追求するあまり、富が手段でなく目的になってしまったのです。ソロモンが悔い改め、赦された後で書いた『コヘレトの言葉』には、彼の苦渋に(くじゅう)満ちた言葉が記されています。それは快楽に溺れる人たちがたどらねばならない苦難の旅を描写しています。

まとめ

「ソロモンは世界の最大の王のひとりから道楽者となり、他の者たちの手先となり、奴隷となった。かつては、気高く雄々しかった彼の品性は、無気力になり柔弱(じゅうじゃく)になった。彼は生ける神に対する信仰を失って、無神論的疑惑を抱くようになった。不信は彼の幸福を損ない、原則を弱め、生活を堕落させた。彼の治世の初期の正義と寛大さは、専制政治と圧政に変わった。人間の性質はなんともろく哀れなものだろう。神は、自分たちが神に依存していることを感じなくなった人々のためには、ほとんど何もおできにならない。

こうした背教の時代に、イスラエルは霊的にますます堕落していった。彼らの王がサタンの手下たちと結託したのであるから、どうしてそうならずにおれたであろうか。敵はこうした手下たちを用いて、真の礼拝と偽りの礼拝に関して、イスラエルの人々の心を混乱させようとした。そして、彼らはやすやすとその餌食(えじき)になった。他の国々との通商によって、彼らは神を愛さない人々と密接に交わるようになり、彼ら自身の神に対する愛も大いに低下した。高く聖なる神のご品性についての、彼らの鋭敏な感覚も麻(ま)痺(ひ)した。彼らは服従の道を歩むことを拒み、義の敵に忠誠をつくすようになった」(『国と指導者』上巻33ページ)。

ミニガイド

【ソロモンの弱さ】

申命記17:16、17には「王は馬を増やしてはならない。……王は大勢の妻をめとって、心を迷わしてはならない。銀や金を大量に蓄えてはならない」と王に関する規定が書かれています。ソロモンはこのすべてを守りませんでした。「馬はエジプトをはじめあらゆる国からソロモンのために輸入」(歴代下9:28)して増やしました。周辺諸国からの貢納品にも「馬」が挙げられており、彼の事業の中に「戦車用の馬」「騎兵隊」「厩舎(きゅうしゃ)」などの語が聖書にたびたび出てきます。メギドの遺蹟を発掘した考古学者はソロモンの厩舎の所在を発見し、今日でも聖地旅行者たちは必ずその説明を聞くほどです。馬は明らかに戦争を意識したもので、ソロモンは力による支配、軍備拡張に意を用いたのでした。

「妻たち、すなわち700人の王妃と300人の側室」(列王上11:3)とありますが、古代オリエント時代の王はしばしば自分の権力の偉大さ、裕福さを強調する意味で妻の数を誇張して表現しました。実数であったかは疑問ですが、神はモーセを通して他の神々に仕える民との結婚を禁じました(申命7:1~5)。理由は神に背き、他の神々に仕えるようになり、神の怒りを招く、と言われ、結果として警告の通りになりました。ソロモン以降の分裂南北王朝の王たちはソロモンが妻たちに心動かされて“導入した”異教礼拝を繰り返しました。その道徳性は表現することもはばかるほどあまりにも低劣で、しかも宗教の名においてなされたことに恐ろしさがあります。まさにソドムの罪に等しく、いずれも破滅は必然でした。神はアッシリア、バビロンを用いて数百年後、ソロモンの国を滅ぼすことになりました。

ソロモンの富については列王記上10:14~29に書かれています。金を豪華に用いた神殿は外国諸王の関心事で、エジプト、アッシリア、バビロンの格好の略奪目標になり、やがて彼らに奪われることになりました。神殿以上に豪華だったのは彼の王宮でした。しかもこうしたプロジェクトに多くの人を強制労働をもって抑圧し、民衆や諸外国の反乱、干渉を受け、破滅の原因となっています。

エレン・ホワイトは「ソロモンの生涯は青年、壮年、老人のすべてに警告」と書き、唯一の防御策は「目を覚まして祈る」しかないと述べています。

*本記事は、安息日学校ガイド2002年3期『列王記と歴代誌ー反逆と改革』からの抜粋です。

聖書の引用は、特記がない限り日本聖書協会新共同訳を使用しています。
そのほかの訳の場合はカッコがきで記載しており、以下からの引用となります。
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『新改訳2017』 ©2017 新日本聖書刊行会

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