マルコ【イエス・キリストの福音】#1

目次

初めに

何年か前のこと、ワシントン・ポスト誌が3ページに及ぶ特別記事を掲載したことがあります。驚いたのはその記事の長さではありません。というのは、ポスト誌は広範囲にわたる報道の扱いをすることで知られていたからです。わたしを驚かせたのはその内容の特異性でした。ウォーターゲート事件を暴いたスキャンダル報道に見られるようなポスト誌の通常の扱い方とは全く異なり、その時の記事は、皮肉や疑いといった色合いがなかったのです。それどころか、ほとんど崇敬に近いほどの賞賛が初めより終わりまで持続的に彩られ表現されていたのです。

その記事は「医師による救済の恵み」という題で、セブンスデー・アドベンチストの著名な小児神経外科医のベン・カーソン博士に関するものでした。カーソン博士は、年に400件以上の手術を施し、子供たちの命を救い、多くの人々に希望と解放とをもたらしていたのですが、その時は自分自身が進行している前立腺ガンと診断されていて、ジョンズ・ホプキンズ大学でその日、彼自身が手術を受ける予定になっておりました。彼はその大学の医学部で小児神経外科局のディレクターであり、神経外科、腫瘍学、形成外科、小児科の教授でした。

どれ程多くの電話や手紙やEメールが、世界中至る所から、患者であった者や崇拝者たちからカーソン博士の自宅や研究室に洪水のように毎日やってくるかをその記事は伝えています。「彼は死ねない」「頭に腫瘍のあるわれわれの子供たちの癒しのため、わたしどもはこの地上で彼を必要としています」と子供ガン基金のシャーリー・ハワード理事長は言っております。

ウーピー・ゴールドバーグと共に、カーソンの生涯に関する映画を製作しようとしているハリウッドの映画プロデューサーの一人、ダン・エンジェルは言っています。「彼は奇跡を行ってきた。そして今や彼自身のためそれが必要である」

死の可能性に直面しても、カーソンは、人々のための手術を続けました。「彼について最も驚嘆すべきは、彼の奥底から輝き出るように思える、しかもいつも溢れているような温かさと静寂の感覚です。あなたはすぐさま、安らぎを感じるのです。なぜならあなたは瞬時に、彼がそこにいて深く寄り添ってくれるのがわかるのです。そして同時に、陽気さがあり、静かで、上品なユーモアがあり、微笑があります」とポスト誌のその記事はリポートしております。

初期の診断は冷酷そのものに思えるものでした。すなわち、MRI検査は脊柱まで転移していることを示しておりました。翌朝、カーソン博士は非常に早く起き、愛犬を散歩させながら、自分の人生を静かに考えそして言います。「そう、わたしは50年も生きてきた。若かった時に考えていたよりも2倍も長生きしたのだ。良い人生であった。そして、もし逝かねばならないとするなら、それも良い」と。

しかし、一人の脊椎の外科医で、MRIの映像を読み取る熟練の専門医は、カーソン博士の検査結果を診て彼に言いました。脊椎の影は生来のもので転移によるものではないと。そこで、カーソンは前立腺にある腫瘍を除去する手術を受けようと計画しました。

翌日のポスト誌はその後の経過を載せています。手術は順調でした。そして、ガンは前立腺以外に転移はしていないことがわかりました。ですから、ベン・カーソンは、十中八九、医療や人々を啓発する書き物、あるいは講演の働きをすることができるようになるでしょうと。

ポスト誌の長い記事の終わりで、リポーターはカーソン博士が頭痛がだんだんとひどくなって苦しんでいた歳の少女キャロライン・シーアを助けた話を詳述しています。その手術は、キャロラインの脳にかかっている圧を解放するため、頭蓋骨の基にかかわる難しい処置を含むものでしたが、カーソン自身が受けなければならない手術やその結果がどうなるかが定かではない状況下にもかかわらず、この手術を引き受けたのです。

1週間後、キャロラインは立てるようになり、頭痛から解放された幸せの内に、退院していきました。カーソン博士のことを、「彼は信じ難い人です」とキャロラインは言います。「彼は謙遜な人です。わたしは何も知らないのですが、彼は市場でだれでも見かけることのできるようなごく普通の人に思えます。ですから、この人が世界的に著名なあの外科医であるとは誰も思わないでしょう」「彼が人々を助ける仕方は、神がなされるのに最も近いように思います」

なんという賛辞でしょうか! 「神がなされるのに最も近いようだ」とは。ベン・カーソン博士はまさに神の故に、そのような人となりを持ち、そのように行動しているのです。彼は人となられた神、イエス・キリストを映しているのです。イエスは、短気で激しやすい代のベンを、やさしくも謙遜なカーソン博士へと変えたのです。2000年前イエス・キリストは、良い業をなして歩まれたのです。そのほとんどの時間を人々の癒しに用いられ、彼以外は誰もが見捨てた男たちや女たち、そして少年や少女たちに希望と新しい出発とをもたらしたのです。

今日、もし、いったい何がベン・カーソン博士にこのような歩みをするようにしたのかを知りたければ、その鍵はイエス・キリストの御力と影響力だということができます。

カーソン博士はイエスの変革を与える影響力の輝きわたる実例なのですが、彼はこのような影響を受けた多数の人々の一人に過ぎません。イエスがガリラヤの小道を歩まれた時以来今日まで、わたしたちの惑星が観察し得た最も高貴で最大の人々はイエスから湧き出たのです。

マザーテレサとその信奉者たち。

アルベルト・シュヴァイツアーとその信奉者たち。

フローレンス・ナイチンゲールとその信奉者たち。

イエス、神の御子はこの地に来られ、その言葉と業とによって神とはどのようなお方かをわたしたちに示され、人類歴史の進路を永遠に変えられました。疑いもなく彼こそはあらゆる時代のあらゆる役割りを担った人々の中で、最も影響力を及ぼした人物でありました。

彼の影響はあらゆる時代の人々、あらゆる社会階層、そしてあらゆる場所に及んでいます。イエスによる新しい、そしてよりよい人物となるために若すぎたり年をとり過ぎたりすることもなければ、弱すぎたり強すぎたり、貧し過ぎたり富み過ぎたり、あるいはまた挫折を繰り返していたり、成功し続けていたりすることもありません。

彼によって変えられた人々は一様に、この世界をより向上させ、より親切で、より高尚な場へと変革してきたのです。

本書では、主イエスが実際に生存しておられた時代に生き、しかもその主によって自分自身の人生に転換を与えられた一人の人によって描写された主イエスのご生涯と御教えとを学びます。ヨハネ・マルコがどのように主を見ていたかを学ぶことになります。

本書は主に関する早期の肖像画です。しかも公にされた一番最初の書である可能性があります。

参考文献

(注)  本書を執筆するに当たり、ラリー・W・ハルタドの『マルコによる福音書注解書』を主要な参考書といたしました。原稿の打ち込みのためには、キトラ・バルナバのお助けをいただいたことを加えて感謝いたします。

1 2 3
よかったらシェアしてね!
目次