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この記事はこんな人におすすめ!
・福音書が何かを知りたい
・それぞれの福音書の違いが知りたい
・福音書の有名なお話や言葉を教えてほしい
福音書って聞いたことはありますか?
いざ、聖書を読もうと思ったときに、まず目に入るのが福音書。でも、4つも種類があると何を読めばいいのかわからないですよね!
この記事では、福音書の基礎知識をざっくり紹介します!
福音書とは
福音とは
福音は、福音書が書かれたもともとの原語のギリシャ語では、「エヴァンゲリオン」と言います。
これは聖書の中では、イエス・キリストによってもたらされた神からの喜びの知らせを指していて、グットニュースという意味があります。
イエス・キリストが十字架で死なれたことによって人間は救われた、と聖書は教えています。これがグットニュース、福音なのです。
この福音の物語、つまりイエス・キリストの人生と教えを描いているのが福音書です。
ルカによる福音書の書き出しで、著者のルカが福音書を書いた目的を明らかにしています。
私たちの間で実現した事柄について、最初から目撃し、御言葉に仕える者となった人々が、私たちに伝えたとおりに物語にまとめようと、多くの人がすでに手を着けてまいりました。
ルカによる福音書1章1―3節
敬愛するテオフィロ様、私もすべてのことを初めから詳しく調べていますので、順序正しく書いてあなたに献呈するのがよいと思いました。



福音とは良い知らせのことなんだね!
福音書はどれから読めばいいの? おすすめや読む順番は?
福音書といっても、聖書にはマタイによる福音書、マルコによる福音書、ルカによる福音書、ヨハネによる福音書の4つの福音書が収録されています。
まず最初、読むのにおすすめなのはマルコによる福音書で、他の福音書と比べて短く、また教えではなく物語が中心となっているのでとても読みやすいです。
その次に読みやすいのは、ルカによる福音書でしょう。
またマタイによる福音書やヨハネによる福音書には、山上の垂訓などの有名な教えが入っているため、キリスト教の教えに触れたい人にはおすすめです。


マタイによる福音書
著者
マタイによる福音書の著者マタイは、カファルナウムにいた徴税人で、レビとも呼ばれています。
彼は収税所で働いていたときに、キリストに出会い、弟子として従っていく決意をします(マタイによる福音書9章9節)。
徴税人の過去を持つマタイは、文書に記録することに他の弟子よりも慣れていたため、キリストの教えや出来事を記録できたのでしょう。
マタイによる福音書の特徴
マタイによる福音書は、人の子としてのキリストを強調しており、またアブラハムの子として提示しています。
先祖たちに与えられた約束を果たすために来た、ユダヤ人が待望したメシアとしてキリストを伝えようとしているのです。



マタイによる福音書のターゲットは、ユダヤ人なんだね!
マタイによる福音書の特徴の一つは、キリストの説教(講話)がすべて記録されているという点です。
その他の福音書でも短く触れられている記録でも、マタイによる福音書ではかなりの文量で記録されています。
また、マタイによる福音書が描いているキリストの物語は年代順に並んではいません。
それは、マタイがこの福音書を書いた目的が、単に記録したのではなく、キリストの思想を発展させることにあったからです。


マタイによる福音書に出てくる有名な聖書の名言
パンのみに生きるにあらず
人はパンだけで生きるものではない。神の口から出る一つ一つの言葉で生きる。
この名言は、キリストが荒野でサタンに誘惑されたときに言われた言葉です。もともとは、旧約聖書の申命記8章3節の言葉で、キリストは旧約聖書から引用されたのでした。
マルコによる福音書
著者
マルコによる福音書の著者はヨハネ・マルコで、バルナバのいとこでした(コロサイの信徒への手紙4章10節)。
エルサレムに実家があり、初期のキリスト教会の集会所として使われていました(使徒言行録12章12節)。
マルコはパウロの第一次伝道旅行についていきましたが、困難にめげてしまい、途中で帰宅。
そのために、第二次伝道旅行の計画をパウロとバルナバが立てたときに、マルコを連れていくかで揉めてしまい、パウロとバルナバは別れていくことになってしまいました。
しかし、パウロも晩年にはマルコを認めています(使徒言行録13章13節、15章37ー38節、テモテへの手紙二・4章11節)。


マルコによる福音書の特徴
4つの福音書の中で最も短いマルコによる福音書は、主題別順序に書かれているマタイによる福音書とは異なり、キリストの生涯を主に年代順に並べています。
またマルコによる福音書の強調点は、行動の人としてのキリストと神であるキリストでした。
そのために、マルコによる福音書は短いながらも、キリストが起こしたほとんどすべての奇跡を記録されており、強調しています。



マルコはラテン語の背景を持つ読者のために書いたと考えられているよ!
マルコによる福音書に出てくる有名な聖書の名言
子どものように神の国を受け入れよ
はっきり言っておく。子供のように神の国を受け入れる人でなければ、決してそこに入ることはできない。
ある日、親が子どもたちをキリストのところへ連れていこうとすると、弟子たちがそれを止めました。そのときに、キリストが言われた言葉がこの言葉です。
ルカによる福音書
著者
ルカは、ルカによる福音書と使徒言行録の著者で、使徒パウロの旅仲間でした。
他の福音書の著者と異なり、ルカはユダヤ人ではなく外国人で、一説では、シリアのアンティオキア出身とも言われています。また、ルカは医師でもありました。
ルカによる福音書の特徴
マタイがユダヤ人が待望したメシアとしてキリストを伝えようとしたのに対し、ルカは全人類の救い主としてキリストを提示しています。
ルカは、人類の友としてのキリストを強調し、人の必要と密接に関わったキリストを描いています。
それはルカが、特に当時の世界共通語であったギリシャ語話者のために書いたことが影響しているでしょう。



ルカは外国人のために福音書を書いたんだね!


ルカによる福音書に出てくる有名な聖書の名言
この方こそメシアである
今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ主メシアである。
有名なクリスマスの物語である天使が羊飼いたちに救い主の誕生を告げる場面は、ルカによる福音書だけに収録されています。
この場面はメサイヤなど多くの楽曲のモチーフにもなっています。
ヨハネによる福音書
著者
マタイと同じく十二弟子の一人、ヨハネが著者です。もともとはバプテスマのヨハネの弟子でしたが、キリストがガリラヤ地方で活動を始めると、キリストの弟子になっていきます。
その後、ヤコブやペテロと共に、十二弟子の中でも中心的な人物となります。
晩年には、パトモス島へと島流しになり、そこでヨハネの黙示録を執筆しました。
ヨハネによる福音書の特徴
ヨハネによる福音書が書かれた1世紀末には、キリスト教に大きな嵐が吹き荒れていました。迫害や異端といった問題が後をたたなかったのです。特に、このとき問題であったのが、グノーシス主義でした。
ヨハネはこのグノーシス主義の誤った価値観を意識して、福音書を書いています。つまり、ヨハネの目的は伝記や歴史的記録を残すことではなく、神学にありました。
そのため、他のマタイ・マルコ・ルカの3つの福音書とは内容が大きく異なるのです。逆に、マタイ・マルコ・ルカの3つの福音書は、内容や構成に共通点が多く見られるため、「共観福音書」と呼ばれます。



ヨハネは教会のために福音書を書いたんだね!
ヨハネによる福音書に出てくる有名な聖書の名言
わたしは良い羊飼いである
わたしは良い羊飼いである。良い羊飼いは羊のために命を捨てる。
キリストはよく自分自身のことを羊飼いにたとえられました。ここでキリストは、暗に自分が人々のために十字架で死ぬことを言われているのです。


福音書のまとめと要約
福音書に出てくる有名な物語
福音書には数多くの有名な聖書の物語が出てきます。ここではその一部を見てみましょう。
イエス・キリストの誕生(クリスマス)
ある日、天使ガブリエルがマリヤのもとへ現れて、救い主を身ごもったことを告げます。マリヤは信仰を持って受け入れますが、婚約者のヨセフはそれが受け入れられません。
自分の子ではない子どもを身ごもったマリヤとの関係に悩むヨセフですが、夢に現れた天使の後押しによって結婚を決意します。
故郷のベツレヘムの馬小屋でマリヤは出産し、天使に言われたとおり、イエスと名付けます。この知らせは天使たちを通じて、近くにいた羊飼いや遠くの国の博士たちにまで伝えられるのです。


十二使徒(弟子)を選ぶ
30歳になると、イエスは宣教の働きを始められます(公生涯)。そのイエスの教えに惹かれた人々が次第に集まってくると、イエスは特に12人の弟子を選ばれました。これが十二弟子で、使徒とも呼ばれる人々です。
有名な弟子では、ペテロ(シモン)、ヤコブ、ヨハネ、また裏切ったイスカリオテのユダなどがいます。


パンと魚(イエスの活動)
イエスはその働きの中で数多くの奇跡を行われました。特に有名なのが「5つのパンと2匹の魚」の奇跡でしょう。
5,000人もの人々が集まったときに、キリストがその場にあった5つのパンと2匹の魚を割いて配っていくと、5,000人のお腹を満たすほどにそれらが増えたという奇跡です。
それを見た人々は歓喜しましたが、やがてキリストの働きの目的が自分たちが思い描いていたものと違うことがわかると、多くの人が離れていきました。
また、このエピソードも影響したのか、古代ローマの迫害下においてキリスト教の隠れシンボルとして「魚」が用いられるようになりました。
「イエス」「キリスト」「神の」「子」「救世主」のギリシア語の頭文字を順に組み合わせると「魚」(イクテュス)という単語になります。


最後の晩餐
十字架にかかる前夜、キリストは弟子たちを集めて最後の夕食の時間を持ちます。
この場面は、レオナルド・ダ・ヴィンチで有名ですが、このときにイスカリオテのユダの裏切りなどをキリストは預言されました。
また、これを覚える儀式を教会では聖餐式と呼んでいます。


十字架
最後の晩餐の後、ゲッセマネの園でキリストは祈られました。
銀貨30枚で裏切ったイスカリオテのユダに連れられた人々の手で、ゲッセマネの園にて逮捕されます。
こうして当時のユダヤの指導者たちの嫉妬により、不当な裁判にかけられ、キリストは十字架刑で処刑されました。


復活
キリストの十字架での死から3日後の日曜日に、女性たちがキリストの体に香油を塗ろうと墓へ行くと、そこはすでに空でした。
死から復活していたのです。
その後、キリストは数多くの弟子たちの前に現れ、40日後、天へと帰って行ったのでした。
このキリストの復活は、キリスト教の信仰の中で最も重要なものとなります。



キリスト教の中で最も大切なことが、キリストの復活なんだね!
最も大切なこととしてわたしがあなたがたに伝えたのは、わたしも受けたものです。すなわち、キリストが、聖書に書いてあるとおりわたしたちの罪のために死んだこと、葬られたこと、また、聖書に書いてあるとおり三日目に復活したこと、ケファに現れ、その後十二人に現れたことです。
コリントの信徒への手紙Ⅰ・15章3節ー5節、17節(新共同訳)
……キリストが復活しなかったのなら、あなたがたの信仰はむなしく、あなたがたは今もなお罪の中にあることになります。


福音書に出てくる教えやたとえ話
主の祈り
だから、こう祈りなさい。『天におられるわたしたちの父よ、御名が崇められますように。御国が来ますように。御心が行われますように、天におけるように地の上にも。
マタイによる福音書6章9ー10節
主の祈りは、多くのキリスト教会で使用されている祈祷文で、礼拝やミサの中で唱えられます。
多くのプロテスタント教会の場合、「天にまします我らの父よ」で始まる文誤訳の主の祈りが使用されています。
内容としては、神への賛美、日常の守り、罪のゆるしなどが含まれています。
山上の垂訓(黄金律)
だから、人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。これこそ律法と預言者である。」
マタイによる福音書7章12節
最も有名な教えの一つであるこの聖句は、黄金律とも呼ばれています。
孔子の「己の欲せざるところ、他に施すことなかれ」に代表されるように、多くの宗教や思想では「してほしくないこと」が中心となりますが、キリストは「してほしいこと」を中心とした教えを説いていきました。
タラントのたとえ
だれでも持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる。
マタイによる福音書25章29節
このたとえ話は次のようなストーリーです。
主人が旅に出る前に、5タラント、2タラント、1タラントのお金をそれぞれに預けて出ていきました。
やがて、主人が帰ってきて報告を聞くと、5タラントと2タラントを預けられた人は主人の資産を倍に増やしましたが、1タラントの人は何もせず、土の中に埋めてしまっていました。
この報告を聞いた主人は、1タラントの人から預けたお金を取り上げ、5タラントの人に渡したのです。
この話の教訓は、自分の能力を適切に使って伸ばしていくことの大切さです。
また、この言葉をもとに米国の社会学者ロバート・K・マートンは「マタイ効果」を提唱しました。これは、条件に恵まれた優れた人はさらに条件に恵まれていくという現象のことです。
よきサマリヤ人のたとえ
心を尽くし、精神を尽くし、力を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい、また、隣人を自分のように愛しなさい
ルカによる福音書10章27節
この有名なたとえ話は、「わたしの隣人とは誰のことですか?」という質問の答えとして話されたものです。
あるユダヤ人が強盗に襲われて、道で倒れていると、そこに当時の宗教指導者であった祭司やレビ人が通りがかります。
しかし、彼らは襲われた人を助けずに通り過ぎてしまうのです。
しばらくすると、今度はユダヤ人と敵対関係に当時あったサマリヤ人が通りがかります。
サマリヤ人は襲われた人を介抱し、近くの宿へと運び入れていくのです。
キリスト教の大切な教えの一つである隣人愛について話されている有名なたとえ話です。




まとめ
福音書をそれぞれ見ていきましたが、どの福音書を読んでみたいと思いましたか?
最初、読むのにおすすめなのはマルコによる福音書です! 他の福音書と比べて短く、また教えではなく物語が中心となっているのでとても読みやすいで、ぜひ読んでみてください。
また、いきなり聖書はちょっと難しいという方は、下で紹介しているようなキリストの物語が小説のように読みやすくわかりやすくまとめられている本を読むのも一つの手です。




参考文献
Nichol, F. D. (Ed.). (1980). The Seventh-day Adventist Bible Commentary (Vol. 5). Review and Herald Publishing Association.
Horn, S. H. (1979). In The Seventh-day Adventist Bible Dictionary . Review and Herald Publishing Association.
教文館『キリスト教大辞典』